私、高町なのは。
 6人の友達と、7匹のデジモンと一緒に、
 崖を崩されて、落下中! 
 
 
 
 
 
 
  第2話 「爆裂進化!グレイモン!」
 
 
 
 
 
 
 
 「うわああああっ!!」
 「きゃああああっ!!」
 
 
 真っ逆さまに落ちていく7人と7匹。デジモン達は、パートナーを助けようとすぐさま行動を起こした。
 
 
 「はやてー!!」
 「すずかー!!」
 「アリシアー!!」
 
 
 空を飛べるピヨモンとテントモン、そしてパタモンが、それぞれのパートナーに腕を掴ませて落下するスピードを弱めようとした。が、重さに耐え切れずすぐに先程の勢いで落ちていってしまう。
 一方ではパルモンが、アリサと右手を繋いだまま、自身の左手から爪のようなものを伸ばし、岩肌に絡ませてぶらさがるが、岩場が崩れ、再び落下していく。
 崖下の川に最初に落ちたのは、クロノとゴマモンだった。
 大きな水しぶきを上げ、すぐに水面から顔を出したゴマモンが、開口一番、叫んだ。
 
 
 「マーチングフィッシーズ!!」
 
 
 ゴマモンが叫んだ途端、カラフルで小さな魚達が、ゴマモンのもとへ続々と集まってきた。魚達はぎゅうぎゅうにせめぎあって、大きな足場を作っていく。
 魚たちに押されるようにしてクロノが水中から引き上げられ、次々に子供達とそのパートナーが魚の絨毯の上に着地した。
 
 「た、助かった…」
 
 なのはが若干息をあげながら言った。全員がホッと息をついたが、それも束の間。
 
 
 
 「ねぇ、あれ!」
 
 
 
 フェイトが声をあげた。
 全員でフェイトの視線を追えば、見えたのは、足場が崩れてこちらに落ちてくるクワガーモンの姿。
 
 
 
 「うわああああっ!!」
 「い、そ、げぇーーーっ!!」
 
 
 
 再度ゴマモンが叫ぶと、魚達の泳ぐスピードが上がった。
 おかげで落下してきたクワガーモンの直撃は免れたが、クワガーモンがたてた大きな水しぶきの波がなのは達を襲った。
 川が、大きくうねる。
 必死に小魚の絨毯にしがみつく子供達は、悲鳴を上げながら、ただただ下流に流されていくしかなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 どれほど流されたのだろうか。
 ようやく陸地に上がれた子供達は、ホッと胸をなでおろし、深いため息をついていた。
 「やっと本当に助かったみたいだね…」確認するようにフェイトが言った。
 
 「何だったんだ?さっきの魚は…」
 
 両膝をついたクロノが疑問を口にする。その呟くような問いに、ゴマモンが笑顔で答えた。
 
 「あれはね、マーチングフィッシーズさ!オイラ、魚を自由に操ることができるんだ」
 「そうか。お前のおかげだったんだな。感謝する、プカモン…じゃなくて……えっと」
 
 先程進化したばかりのパートナーの名を呼べず、言葉が詰まるクロノ。だがゴマモンはそれほど気にしていないようで、あっさりと自ら名乗った。
 
 「ゴマモンだよ」
 「ゴマモン……?」
 
 アリシアも自分のパートナーに問いかけた。
 
 「どうなっちゃったの?トコモンは…」
 「今はパタモンだよ」
 「ボクたち、進化したんだ」
 「進化?何なの、進化って」
 
 なのはが、アグモンの言った『進化』について尋ねながら立ち上がった。
 
 
 「普通は、ある生物の種全体が、より高度な種に変化するようなことだけど…」
 
 
 すずかが答えると、羽を開いて飛んでいたテントモンが反応した。
 
 
「そうですがな。その『進化』!わいはモチモンからテントモンに」
「あたしはピョコモンからピヨモンに」
「オレは、ツノモンからガブモンに」
「あたしはタネモンからパルモンに」
「そしてボクは、コロモンからアグモンになったんだ」
 
 
 デジモン達が再び自己紹介をすると、なのはは「へ~…とにかく前より強くなったみたいだね」と簡単にまとめた。そしてそのまま「その…『進化』してもデジタルモンスターなのかな?」とアグモンに尋ねた。
 
 
 「そうだよ~。なのはと会えてよかったよ」
 「ふぇ?なんで?」
 「ボクは、自分だけだと進化できなかったんだ。きっとなのはと会えたおかげで進化できたんだよ」
 「? ふーん…」
 
 
 笑顔で言うアグモンに対し、いまいち理解できない、といった表情を浮かべるなのは。
 
 
 「へ?じゃあピヨモンも?」
 
 はやてがピヨモンに聞くと、ピヨモンは嬉しそうに「そう!」と答えた。
 
 
 「みんなそうなのかな?」
 「そうですがな!」
 
 すずかの問いに、テントモンが頷いた。
 
 
 一方で、パルモンが「アリサのおかげよ♪」とニコニコしながらその場でくるりと一回転するが、当のアリサは「おかげって言われてもねぇ…」と苦笑いしながら呟くだけであった。
 
 
 「もう元に戻らないの?」
 「うーん、多分」
 
 アリシアもパタモンに疑問をぶつけていた。聞きたいことは尽きない。
 
 
 「なんだかよくわからないな…」
 「オイラたちにもよくわからないんだよ」
 
 
 クロノの一言に、ゴマモンが返す。肝心のデジモン達がこれだ。どうやらこの場では答えが出ないようだった。
 
 
 
 「それより、これからどうする?」
 
 
 
 フェイトが皆に向かって言う。そう、現状で一番大きな問題はそれだった。
 
 
 「元の場所に戻らないか?大人達が助けに来るのを待つんだ」と、まず最初にクロノが提案した。
 
 
 「戻るって言ってもなぁ…」
 「随分流されてもうたし…」
 「崖の上にまで戻るのは、簡単じゃなさそうだよね…」
 
 なのは、はやて、フェイトが、流されてきた上流の方を見上げながら順番に呟いた。
 
 「じゃあどうするかな…?どこか道を探して…」
 「そもそも、ここは一体どこなんだろう。どう考えてみても、キャンプ場の近くじゃないよね」
 
 クロノの発言を遮って、フェイトが言った。それにすずかが反応した。
 
「そうだね…。植物がまるで亜熱帯みたい」
 「ほんまや!」
 
 テントモンが大きな声を上げて相槌を打った。
 
 「え、わかるの!?」
 「いんや」
 「………」
 
 すずかとテントモンの間で漫才が行われた。
 
 
 
 
 
 再びクロノが口を開く。
 
 「下りてきたんだから、戻る道もあるはずだ」
 「そうやね。とにかく戻ってみれば、どうしてこんなところに来たんか、何か手がかりがあるかも…」
 「えーっ!でもさっきのみたいなのが他にもいるんじゃない?」
 
 クロノの後に続いたはやての言葉に、アリサが不安そうに言う。アリサが危惧していたのはクワガーモンのことだった。
 
 「いるわよ」
 「うわぁ…」
 
 今度はパルモンがその疑問にたった一言で答えた。
 「危ないことはしたくないけど…」と、フェイトは言いながら考え込む。
 
 「他の人間は?」
 「ニンゲン?なのはみたいな?」
 「うん」
 
 なのはは思いついたようにアグモンに尋ねた。
 
 
 「見たこと無いよ。ここはデジモンしかいないんだ」
 
 
 アグモンはきっぱりと答えた。
 
 
 「デジモンしかいないって言っても…アグモン達って結構色んな格好してるよねぇ」と、なのは。
 「たしか…ファイル島、って言うてたよね?」と、はやて。
 「本当に島なのかな?」と、フェイト。
 「聞いたこと無い名前だよね」と、すずか。
 「日本じゃないのか……?」と最後に言ったのは、クロノ。
 
 
 少し沈黙が続いたが、すぐに頭を切り替えたのは、なのはだった。
 
 
 「とにかく行ってみよう。ここでじっとしててもしょうがないよ」
 「え?なのは、どこに行く気?」
 
 なのはの突然の行動にフェイトが少し驚きながら言った。
 
 「さっき、海が見えたの」なのはが振り向いて答えた。
 「海?」フェイトが聞き返す。
 
 
 「そう。だから、行ってみようよ!」
 
 
 そう言って、なのはは再び歩き出した。
 
 
 どんどん前へ進んでいくなのはを見ながら、フェイトは隣にいるはやてに聞いた。
 
 
 「行ってみる?」
 「せやな」
 
 
 
 
 
 
 
 
 海に向かって、なのは達は川沿いの道を歩いていた。ゴマモンだけは、川を泳いで進んでいる。
 
 「見たことも無い木やなー…」
 
 周囲の奇妙な木を眺めながら歩いていたはやてが呟いた。
 
 「亜熱帯かと思ったけど、どうやらそれも違うみたいだね…」
 「やはり日本じゃないのか…どうも妙だ」
 
 すずかとクロノがそれに答えた。
 
 
 
 「そもそもこのデジタルモンスターっていうからして妙だよね」ポツリとフェイトが言った。
 「ふぇ?」
 
 当のデジタルモンスター…もといガブモンは、きょとんとしている。
 
 
 
 「デジタルモンスター…電子的なモンスター?」
 「普通は『デジモン』でよろしいで」
 
 すずかの推理にのんびりと付き合うテントモン。
 
 「デジタルって言うような電子的な感じしないね…」
 「え、電気でっか?ほれ!」
 
 電子という言葉に反応して羽の間に電気を発生させるテントモンを、すずかが「わぁ!危ないよ!」と慌てて止めた。
 
 
 
 「パタモンってさっき飛んでたよね」
 「飛べるよ。ほら!」
 「わあ、すごーい!」
 
 アリシアの言葉に反応して、パタモンが羽をはためかせて飛んだ。
 
 「でも歩いたほうが速くないかなぁ?」
 
 飛んでいるパタモンの高度は段々と下がっていった。
 
 「あたしの方が速いわよ!ほら!」
 
 そう言ってピヨモンも羽根を動かして飛ぶが、
 
 「どっちも変わらんな」
 「えぇ~」
 
 はやての言う通り、2匹揃って高度を下げながら後退していくばかりだった。
 
 
 
 
 
 
 「あ!そういえばはやて!さっき聞きそびれたけど、その足一体どういうこと!?」
 「あ、それ私も気になってた」
 
 突然、先のクワガーモンの一件ですっかり聞き損ねていたはやての足のことを思い出し、アリサとフェイトがはやてに問い詰めた。
 
 「へ!?ええと…どこから説明すればええのかな…?」
 
 はやてが困った顔をして考えているのを見て、なのはが「起きたら車椅子が無かったんだよね」と助言した。「そうや!」とはやては頷くと、
 
 
 「それでな、やっぱり足が動かせへんかったから、どないしよって思っとったら、この本がな、急に光りだしたんよ」
 
 
 と言いながら、その手に持っていた茶色の本を指差した。オーロラが現れたときに落ちてきた、表紙の中央に金色の剣十字が施された本。
 
 「で、その光が収まったら、なぜか足が動くようになっとったんや」
 「…疑問が尽きないけど、とにかく今は歩けるし、走れるのね?よかったじゃない」
 「まぁ、限度を超えたらまた動かなくなるらしいんやけど」
 
 
 誰に聞いたんだそんなこと、と更にアリサが追究しようと口を開きかけた時、なのはがアグモンに話しかけた。
 
 
 「ここには、デジモンしかいないって言ってたよね」
 「そうだよ」
 
アグモンの答えを聞きながら、なのはは続けた。
 
 「さっきのクワガーモンも、デジモンなの?」
 「そう」
 
 そのあっさりした返答を聞いてすずかが呟いた。
 
 「あんな大きいのがいるなんて…他にもまだいるのかな?」
 「ここにはデジモンしかいてませんて」
 
 テントモンがすずかにさらっと突っ込んだ。
 
 
 
 
 
 不意に、「ん?」とガブモンがふと足を止めて、においをかぎ、言った。
 
 「海のにおいがしてきた!」
 「お?見えたよ!海だぁい!」
 
 川を泳いでいたゴマモンも笑顔で言った。
 前方に目を向けると、川幅が少しずつ広くなっていて、その向こうに海が広がっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ふぇ?」
 
 
 その光景を見たと同時に、聞き覚えのある音が聞こえてきて、なのはは不思議な表情をした。この場所では違和感のある音だったからだ。
 はやても怪訝そうな顔をしながら、呟いた。
 
 
 「こないなところで電話の音?」
 
 
 海辺には6つ、電話ボックスが並んでいた。疑問は多いが、一行はとりあえず走って、それらに近づいた。
 先頭を走っていたなのはがそのうちの1つの電話ボックスの扉を開くと、電話のベルは鳴り止んだ。
 
 「どうした?なのは」
 
 状況がよく分かっていないらしく、アグモンがなのはに問う。
 
 「止まった…」
 
 
 
 
 
 「こないなところに電話ボックスなんてな」
 「おかしいよね」
 「でも、これ…いつも見る電話ボックスだよね?普通の」
 「あたしの家の側にもあるわよ」
 「ということはここは…まだ日本なのか?」
 
 はやて、すずか、フェイト、アリサが順に言い、クロノが疑問をこぼす。
 
 「日本~?クロノ、なんだそれ?」
 
 そう聞いてきたゴマモンを見て、「やっぱり違うか…」とクロノは再び考え直しはじめた。
 
 「…すずかちゃん、両替できる?」
 
 電話ボックスの扉に手をかけたままだったなのはは、少し考え事をしてから、すずかにそう尋ねた。
 
 「え?なのはちゃん、何するの?」
 「決まってるよ。電話かけてみるの、うちに」
 「あ、それならがテレカあるよ。はい」
 
 そう言って、すずかはなのはにテレカを手渡した。そのやりとりを見て、アリシアが「あ、私もお母さんに!」と言って電話ボックスへ入り、「あたしも!」とアリサも電話ボックスへ向かった。
「それじゃあ私も」とすずかがそれに続き、フェイトがアリシアを追って、はやてが「まぁ、石田先生には連絡せんとな」と言いながら皆の後を追った。「あ、はやてまで!」と言いつつも、クロノも結局電話ボックスに入っていった。
 
 
 
 
 
電話番号を押し、聞き慣れたコールがかかるのを耳にしながら、なのはは相手が出てくるのを待つ。しばらくして、ブツンと、相手が受話器を取った合図が聞こえた。
 
「もしもし?私、なのはだけど」
 
だが、受話器の向こうから聞こえてきたのは家族の声ではなかった。
 
 
〈午前35時81分90秒をお知らせします。ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ♪〉
 
「な、なにこれ!?」
 
 
 
 
他の電話ボックスも同じように意味不明の内容ばかりだった。
 
〈明日の天気は晴れ、時々アイスクリーム〉
「あら?間違えたかしら」
 
なのはの隣の電話ボックスではアリサが。
 
 
〈おかけになった電話番号は気のせいです!もう一度かけなおしても無駄でーす!〉
「変だよ?お姉ちゃん」
「…うちにかけてみる」
 
アリサの隣の電話ボックスにはフェイトとアリシアが。
 
 
「なんだろう、この電話…」
 
フェイトとアリシアの隣の電話ボックスではすずかが。
 
「そっちは、どないな按配や?」
「なんかだめみたい」
 
テントモンがピヨモンに聞く傍らで、
 
〈現在、電波・超音波、全て届かないところにいます〉
 
すずかのいる隣の電話ボックスにいたはやては、その奇妙な台詞を聞いて受話器を戻した。思わず、ため息が出た。
なのはがはやてに近づいて結果を尋ねた。
 
「どうだった?」
「だめやね」
 
「やっぱり…何なんだろう、この電話」