「これなら、どうだっ」
 〈5時99時99分100秒をお知らせします。ピッ、ピッ、ピッ、ピーッ♪〉
 「…じゃあ次は!」
 
 ゴマモンが側で見守る中、色んな電話番号を最後までかけ続けているのはクロノ。
 他の皆は早々に切り上げて、砂浜に座り込みながら、クロノが格闘している電話ボックスを遠くから眺めていた。
 
 
 「結構しつこい性格してるんだね」
 「クロノ君らしいよ」
 
 すずかが言い、なのはが苦笑いしながら言葉を返した。
 
 「どこにかけても聞こえてくるのは、でたらめな情報ばかりだね」フェイトが落胆した声で呟いた。
 
 「そうだね…じゃあそろそろ移動する?」
 「ちょっと待って。こっちからかけられなくても、向こうからかかってくる可能性があるんじゃないかな?さっきみたいに。だから、しばらく様子を見てみたらどうかな…?ほら、みんな疲れてるし」
 
 フェイトの意見は正論だと言えた。アリサやアリシアはぐったりしていたし、顔にはあまり出していないが、はやても、数年来の長い徒歩でかなり疲れていた。
 
 「おなかも減ってきたもんね」とのすずかの一言に、
 「そうだね。お昼もまだだったからね……よし!休憩にしよう、休憩!」
 
 なのはが頷き、高らかに宣言した。
 それを見て、はやてがこっそりと、息をついた。歩く事自体が数年ぶりの彼女にとっては、ここまでの道のりでも、かなり過酷なものだったようだ。
 
 
 「誰か、食べるもの持っとるか?私が持っとるのはこの…あ、そういえばこれ持ったまんまやったな」
 
 
 そう言って話を変えたはやては、「この、あの時空から降ってきたやつ」と言いながら、手に持ったままの本に目を向けた。
 
 
 「あ、それ。私も持ったままだ」
 「あたしのバッグにも付いてる!」
 「私もー!」
 「みんな持ったままだったんだね」
 
 
 なのは、アリサ、アリシア、フェイトが自分の身についている謎の機械を見ながら続けて言った。
 
 
 
 「……というかこの本、昔から私の家に置いてあるものでな、今日もキャンプあるから家に置いてきたはずなんやけど」
 
 
 
 しかも家にあった時は鎖がガッチガチに巻かれとったから中を見ることもできんかったのに、とはやては更に謎が増えるような不思議な発言をした。それを聞いた他の皆が、揃って首をかしげる。そんな非常識なことがあっていいのか、と。すると、その時―――
 
 
 
 
 〈その本はただの本ではありませんから〉
 
 
 
 
 
 
 ――――聞き慣れない女性の声がした。
 
 
 
 
 
 「………今の、誰の声?」
 
 長い沈黙の後に、誰に向けるでもなくアリサが聞いた。
 
 「…多分、これが……」
 
 それにおずおずと答えたのは、なのは。しかも、自身が首から提げている紅玉を指差していた。
 
 
 
 
 〈はじめまして、マスター〉
 
 
 
 
 
 
 紅玉が点滅しながら、喋った。
 
 
 
 
 
 「…え、ええぇぇぇぇ!?」
 「ちょっ…それどういうこと!?」
 
 なのはが叫び、アリサが更に混乱する。
 
 
 〈驚かせてすみません。私はレイジングハート。今あなたの胸元にある紅い玉です。よろしくお願いします〉
 「こ、こちらこそよろしく…って、しゃべれるの!?」
 〈そちらの金色の台座と、電話ボックスにいる彼の銀色のカードも喋れますよ。その、茶色の本…闇の書は、喋りこそしませんが、意思があります〉
 
 
 なのはの疑問に答えたレイジングハートの言葉に固まるなのはとフェイト、そしてはやて。
 
 
 「え?……本当?」
 〈はい。はじめまして、サー。私はバルディッシュと申します〉
 「あ、うん。えと……よろしく」
 
 フェイトは戸惑いながらも挨拶を返した。
 
 
 
 「……闇の書?」
 
 はやてに呼ばれると、闇の書ははやてに擦り寄った。
 
 
 
 「じゃあ、私のはー?」
 
 光る紅玉に、謎の機械を見せながら尋ねたのはアリシア。
 
 〈意思はありませんが、機能上の違いはありません〉
 「なんだぁ…」
 
 残念そうに言うアリシア達が持つ形の機械は、喋ることもなければ、意思も無いようだった。
 
 
 
 
 
 
 
 「あ…ところで、誰か食べ物をって話だったよね」
 
 一騒動あってから、おなかが鳴ったすずかが、顔を紅く染めながら言った。
 はやてが腰につけたウエストポーチを漁りながら、「私が持っとるのは、旅行用の救急セット…絆創膏と消毒薬。それに針と糸くらいやな。他は全部車椅子のポッケの方や」と言い、自分の持ち物を皆に見せた。
 
 「私は、このノートパソコンとデジカメ、携帯電話。でも、ここに来てから、どれも使えなくなってるの。まだバッテリー残ってたはずなんだけど…」
 
 次はすずかが自分の持ち物を取り出す。なのはがパソコンを見て苦笑いした。
 
 「よく持ってきたね…サマーキャンプに」
 「あはは、忍お姉ちゃんが『自信作だから使ってみて』って…なのはちゃんは?」
 「え、私?えっと……これだけかな。単眼鏡」
 
 そう言ってなのはがズボンのポケットから出したのは単眼鏡。
 
 「私も食べ物は持ってないかな」
 
 フェイトが自分のズボンのポケットに手を突っ込みながら呟いた。そのフェイトの隣に座っていたアリシアが「私、もってるよ!」と笑顔で言った。「ほら!」と言いながらリュックを開けるアリシア。
 
 「あ、お菓子!おいしそうね。…そういえばあなた、うちの子供会の子じゃなかったわよね?」とアリサがアリシアに尋ねた。
 「うん!夏休みだからお姉ちゃんのとこに遊びに来たんだ。ね、お姉ちゃん!」
 
 無邪気にアリシアがフェイトを見上げ、笑いかける。
 
 
 「あ、うん」
 
 フェイトは、少しぎこちなくそれに答えた。
 
 
 「フェイトちゃんがお姉ちゃんだって」
 「従妹かなぁ」
 
 なのはとすずかがこそりと呟く一方で、一瞬、はやてが微妙な表情を浮かべた。だが、すぐにいつもの笑顔で、アリサに話しかけた。
 
 「アリサちゃんは何持って来たん?そのバッグ大きいけど」
 「え、これ?これはね……これでしょ、固形燃料でしょ、釣り糸セット、コンパス、懐中電灯、それから…」
 
 
 言いながら、鞄から中身を次々に取り出していくアリサを、皆がポカンと見つめた。
 
 
 「け、結構本格的なサバイバル用品だね…」
 
 唖然としつつも、感心しながら言うフェイトに、アリサが笑みを浮かべながら答えた。
 
 
 「せっかくキャンプに行くんだから、パパの道具借りてきたのよ!もちろん内緒でね」
 
 
 「す、すごいね…」となのはが苦笑いしながら言った。
 
 
 「でも、これからは役に立つかもしれないね」
 「そうやね。この先どうなるかわからんし」
 
 フェイトとはやてが真剣な表情で言った。
 
 
 「そっか、それもそうだね。…ところで、クロノ君はまだ電話してるけど、食べ物とかは持ってきてな……あ、あれ!」
 
 
 なのはが言いながらクロノに目を向けると、あっ、と声を上げて言った。
 
 
 
 
 「非常食だ!!」
 「ええっ!?」
 
 
 
 
 
 皆が驚きの声を上げる。すずかも慌ててクロノの方へ振り返ると、「ほんとだ!」と叫んだ。
 
 「クロノ君!非常食持ってたの!?」
 「む?何の話だ?」
 
 なのはがいまだ電話ボックスにいるクロノに大声で呼びかけた。クロノはいまいち状況がわかっていないようだった。
 
 「だって、そのバッグ…」
 「バッグ?…そうだ、これをアリサに届けに行くところだったんだ」
 「あたし?」
 
 すずかの一言で非常食の存在を思い出したクロノは、受話器を戻して、きょとんとしているアリサへと近づいた。
 
 「アリサは非常食当番だったろう?だから管理を任せようと思ってな」
 「あ、そういうことね。ごめんなさい、ずっと持たせたままで」
 「いや、特に気にしてはいないさ」
 
 クロノとアリサのやりとりをポカンと見つめるアリシア。
 
 「食べ物があるってわかっただけでも十分だね。お昼にしよう?」
 「そうやな」
 
 なのはの提案に、はやてが賛成した。
 
 
 
 
 
 
 「非常食は、一班につき三日分支給されている」
 
 海辺の砂浜で、皆で円になる中、クロノが説明を始めた。
 
 「僕の班は6人だったから、6×3×3で…」
 「54食ね」
 「そうだ」
 
 クロノが言い切る前に、アリサが暗算して答えを出した。クロノは頷いてから、さらに説明を続ける。
 
 「それを7人で分けて食べると…」
 「2日半ね」
 「……そうだ」
 「せやけど、デジモンたちの分もあるから、実際にはその半分…1日ちょっとやな」
 
 はやての一言に、クロノが「そうだな…」と唸った。
 
 
 
 すると、皆の不安そうな表情を見て察したのか、ガブモンが言った。
 
 「オレたちの分はいいよ。自分の食べる分は、自分で探すからさ」
 「うちらは勘定に入れんでええわ」
 
 テントモンもガブモンに続いた。
 
 
 「ほんとにええんか?」
 
 驚きと安心と心配の入り混じった表情で、はやてがピヨモンに聞く。
 
 
 「うん、大丈夫。今までずっとそうだったんだから」
 
 
 ピヨモンはしっかりと頷いた。
 
 
 「そうしてもらえると助かるな。それじゃあこの非常食は人間の分ということで…」
 
 そう結論をまとめるクロノの隣で、
 
 
 
 「どうかな、おいしい?アグモン」
 「うん!」
 
 
 
 なのはが、アグモンに非常食をあげていた。
 
 
 
 「ちょっ……おい、なのは!?」
 「あ、ごめん…自分達だけ楽をするのは、ちょっと…」
 
 なのはの意外な行動に驚くクロノ。なのはらしい理由に、同級生4人は皆苦笑いをこぼした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 陽気で暖かな天気の中、最初にその異変に気付いたのは、海でのんびりしていたゴマモンだった。
 ゴゴゴ、という小さな音をたてて、それは海から近づいてきた。
 陸地にまで近づいてきたその小さな地響きに、砂浜にいたメンバーの中で最初に気付いたのは、ピヨモン。
 その音に気付くと、ピヨモンは急に立ち上がって後ろを振り返り、真剣な顔つきで海を見た。
 パートナーの突然の行動に驚いて、はやてがピヨモンに声をかけた。
 
 「どうしたんや?ピヨモン」
 「……来る!」
 「え?」
 
 ピヨモンがはやての声に答えた瞬間、突如砂浜から、大きな水柱が噴き出した。海ではなく、砂浜に。
 水柱はそのまま海沿いにまっすぐ動き、電話ボックスを次々に吹き飛ばしていった。
 宙に投げ出された電話ボックスが落下して、ガラスの割れる大きな音をたててひしゃげる。
 
 
 
 「な、なに!?」
 
 
 
 荷物もそのままにして水柱から離れ、電話ボックスの残骸を見ていたなのはが言った。
 すると今度は砂浜の真ん中が盛り上がって、そこから巻貝のようなものが現れた。
 テントモンが叫ぶ。
 
 
 
 「シェルモンや!このへんはあいつの縄張りやったんか!」
 
 
 
 シェルモンと呼ばれたデジモンは、巻貝の中から、ピンク色の顔を出し、空気を震わせるような声を辺りに轟かせた。
 
 「みんな!こっちだ!」
 
 クロノが皆を逃げるよう促し、目の前にあった小さな崖を登り始める。
 しかし、近づいてきたシェルモンが、クロノめがけて頭から水を噴射した。
 
 
 
 「うわあっ!!」
 
 
 
 突然の攻撃に、クロノは崖を掴んでいた手を離してしまった。
 
 
 「クロノーーーッ!! うわああっ!!」
 
 今度はクロノの身を案じたゴマモンに向かって水鉄砲をぶつけるシェルモン。それをまともにくらったゴマモンは波にのまれた。
 
 
 「行くぞみんな!」
 「お願い、アグモン!」
 
 
 先頭のアグモンの掛け声で、一斉にシェルモンへ立ち向かうデジモン達。
 
 
 
 ところが、である。
 
 
 
 「ベビーフレイム!!」
 「プチファイヤー! …あれぇ?」
 「マジカルファイヤー! …ふぇ?」
 「プチサンダー! …ん?」
 
 
 アグモンのベビーフレイム以外の技が、出なかった。
 
 
 「どうしたの!?」
 「技が全然出てない!」
 
 すずかとフェイトをはじめ、子供達は困惑した。
 チャンスとばかりに、シェルモンが再び水鉄砲を噴射し、デジモン達を吹き飛ばしていく。ぐったりとしたデジモン達に、パートナーである子供達が駆け寄った。
 
 
 「アグモン!」
 「くそう!」
 
 
 その中でアグモンだけが体勢を立て直し、再度シェルモンに立ち向かっていく。
 
 
 「エアーショッ……うわぁ!」
 「ポイズンアイビー!…あら。 きゃあっ!」
 
 パタモンとパルモンも技が出ず、シェルモンに頭でなぎ払われた。
 その一方でアグモンがシェルモンに近づき、小さな火球を放つ。
 
 
 
 「ベビーフレイム!!」
 
 
 
 アグモンの攻撃がシェルモンに効いているのを見ながら、すずかが呟いた。
 
 「どうしてアグモンだけが…?」
 「すんまへん、腹減って…」
 「え?」
 
 
 フェイトも自身のパートナーに問うた。
 
 「ガブモンも?」
 「力が出ないよ…」
 
 
 はやてがボロボロになったピヨモンを抱き上げながら、ハッとして言った。
 
 「そうか、アグモンはさっきご飯食べとったから…!」
 「なるほど…」
 「じゃあ、他のデジモンに戦う力は無いってこと!?」
 
 
 すずかが納得し、フェイトが強い口調で現状を要約する。なのははそれを聞いてアグモンに呼びかけた。
 
 
 「アグモン!私達だけでなんとかしよう!」
 「わかったよ、なのは!」
 
 
 アグモンの力強い返事を聞いて、なのははシェルモンの注意をそらそうと走り出した。
 
 
 「ほら、こっちだよシェルモン!」
 「なのはちゃん!」
 
 いくらなんでも危険や、とはやてが叫ぶ。
 
 
 尚もアグモンがシェルモンに攻撃を続けている隙に、なのはは、電話ボックスの残骸から細い棒のようなものを拾い上げ、それを使ってシェルモンを力一杯どついた。
 
 
 
 「えいっ!この、やぁっ! …きゃあっ!」
 
 
 
 おそらく効いていないのだろうが、シェルモンが黙っているはずも無い。目障りだとでも言うように、頭の黄色い触手をなのはに巻きつかせ、その身体を軽々と持ち上げた。
 
 
 
 「なのは!」
 
 
 
 アグモンがその光景を見て叫んだ。するとシェルモンは、なのはを持ち上げたまま、一瞬動きが止まったアグモンに襲い掛かり、自身の手で踏みつけた。邪魔者がいなくなったところで、次々に水鉄砲で他の子供達を襲うシェルモン。
 
 
 「きゃあっ!」
 「うわっ!」
 「くうっ!」
 
 
 「くっ!このままじゃみんなが……なんとかならないの…っ!?」
 
 見ていることしかできず、悔しそうにしているなのはを、シェルモンはさらにギリギリと締め付けた。
 
 
 
 「きゃあああーーーっ!!」
 「なのはぁっ!!」
 〈マスター!〉
 
 
 
 苦しそうにしているパートナーを目の当たりにして、アグモンとレイジングハートが叫んだ。
 
 
 
 
 「ア、グモン…ッ!!」
 
 
 
 
 なのはが自分を呼んでいる。なのに、側に行けない。
 自分はなのはを守らないといけないのに、それができない。
 悔しい。なのはを助ける力が欲しい。
 
 
 
 
 シェルモンに押さえつけられながら、アグモンは、そう、強く願いながら、叫んだ。
 
 
 
 
 
 「なのはぁーーーーっ!!」
 
 
 
 
 
 アグモンが叫んだ、その時。
 強い光が突然、アグモンの身体を包んだ。
 それに呼応するように、レイジングハートの画面が一瞬揺れ、桃色に輝きだした。
 
 
 
 
 
 「アグモン進化! グレイモン!!」
 
 
 
 
 
 眩い光が消える。そこには、シェルモンと対等の大きさの怪獣がいた。
 踏みつけていたアグモンが突然大きさを変えたので、バランスを崩したシェルモンが、思わず砂浜になのはを投げ出した。
 
 
 「きゃあっ!」
 
 
 なのはは砂浜に転がった後、すぐに起き上がって、目の前の、茶色とオレンジ色の恐竜を見つめた。
 巨大な恐竜とシェルモンは睨み合っていた。
 
 「また進化…?グレイモンだって?」
 〈ご無事ですか、マスター!〉
 「え、レイジングハート!?うん、大丈夫だけど、これって一体…」
 
 なのははレイジングハートに現状を聞こうとした。だが、グレイモンとシェルモンがしばらく睨み合った後、正面から掴み合ったので、そちらに目を向けた。
 
 「…! 頑張って!グレイモン!!」
 
 なのはの声援を受け、グレイモンがシェルモンを押した。シェルモンが水鉄砲を噴射するが、グレイモンはそれをひょいと避け、お返しといわんばかりに口から炎を吐き出した。アグモンの時よりも強くて、大きな炎を。
 シェルモンの噴射した二度目の水鉄砲は、その炎とぶつかって、水蒸気になりながら相殺された。
 グレイモンは、自身の頭をシェルモンの体の下に入れると、頭を勢いよく振り上げ、シェルモンを投げ飛ばした。空中で身動きが取れないシェルモンに、グレイモンが再度大きな火球を放つ。
 
 
 
 「メガフレイム!!」
 
 
 
 それをまともにくらったシェルモンは、海の向こうまで吹き飛ばされ、大きな水しぶきをたてて遠海に落っこちた。
 海に再び静寂が戻る。
 
 
 グレイモンの体が再び光り輝くと、グレイモンはアグモンの姿に戻ってしまった。なのはがアグモンに駆け寄る。
 
 「アグモン! 戻ったんだ…大丈夫!?アグモン!!」
 「なのはぁ~…腹、減った……」
 
 ぐったりしながら言ったアグモンの言葉を聞いて、なのはは力が抜けたように笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ここにいる理由は無くなっちゃったね」
 「そうだね…」
 
 無残に転がる公衆電話をいじりながら「もう使い物にならないな…」と呟くクロノを見ながら、なのはとフェイトが言った。
 
 「さ、どんどん食べてなー」
 
 その側では、デジモン達が非常食を食べているのを微笑んで見守るはやてとアリサ、アリシア。
 さっとすずかが立ち上がって、なのはとフェイトの方を振り返った。
 
 「シェルモンも完全に倒したわけじゃないし…また襲ってくる前に、ここから離れた方がいいんじゃないかな?」
 「あの森で助けを待つ、というのも、無理そうだしな…」
 
 すずかの意見に、戻ってきたクロノが言葉を返し、はやてがクロノに続いた。
 
 「そやね。ただでさえ、崖から落ちて川を下ったからな…そう簡単には戻れんやろな」
 「ここに電話があったってことは、誰か設置した人間がいるんじゃないかな?その人間を探したほうがいいかも」
 
 すずかの提案に、クロノもはやても賛同した。
 
 
 「よし、それでいこう!」
 
 
 そう決めるなのはに、アグモンが嬉しそうに言った。
 
 
 「ボクはなのはの行くところだったらどこにでも行くよ!」
 〈私もです、マスター〉
 「ありがとね、アグモン、レイジングハート♪」
 「じゃ、決まりだね」
 「ああ」
 
 
 皆がそう口々に賛同するのを確認して、クロノが呼びかけた。
 
 
 「それじゃあ、みんな自分の荷物を確認してくれ!」
 
 
 
 
 
 
 
 「よーし、出発!!」
 
 荷物の確認を終え、なのはの声とともに、子供達とデジモンは再び歩き出す。
 どこへ向かうのか、どこへ向かえばいいのかすらわからぬままに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 こうして7人と7匹は歩き始めた。
 誰も知らない、冒険の世界へ―――