私達は、ただ進む。
 今ここではない、どこかへ向かって。
 
 
 
 
 
 
 第3話 「蒼き狼!ガルルモン」
 
 
 
 
 
 
 波打ち際の崖の上から、なのはは海を見下ろしながら考えにふけっていた。
 
 
 (あの時、どうしてアグモンだけが、グレイモンに進化したんだろう?他のデジモン達は全然進化しなかったのに)
 
 
 なのはが考えていたのは、先程の砂浜で起こった進化のことだった。
 
 
 「ねぇレイジングハート?」
 〈なんでしょう、マスター〉
 「どうしてアグモンは進化できたの?」
 〈ご飯を食べていたからではないでしょうか?〉
 「そ、それだけなのかな……?」
 
 
 胸元の紅玉――レイジングハートに聞いてみたが、いまいち納得のできない答えが返ってきた。なのはは苦笑いしながら、ならば本人に聞いてみようと思い、アグモンを呼んだ。
 
 
 「アグモン!」
 「なぁに?なのは」
 「アグモンは、どうしてグレイモンから、またアグモンに戻っちゃったの?」
 「それは…」
 「それは?」
 「ボクにもよくわかんないや!」
 「え!?」
 
 
 肝心のデジモンのその答えに拍子抜けして、思わずガクッとバランスを崩したなのはは、危うく崖から落ちそうになった。アグモンがなのはのシャツを掴み、助ける。
 そんなほのぼのとした光景に皆が笑っていると、突然、子供達の近くから低い唸り声が聞こえた。それが聞こえてくるやいなや、見たことのない大きなデジモンが、岩を砕いて現れた。
 
 
 「何、あれ…!」
 「モノクロモンや。でもおとなしいデジモンやさかい、心配せんでもええやろ」
 
 すずかの言葉に反応してテントモンがそのデジモンの説明をした。
 
 「そんなこと言っても…こっちに向かって来るよ!?」
 「なんなのよぉ!」
 
 なのはの言う通り、モノクロモンはこちらへ向かって来た。何が起こっているのか全くわからない、とアリサが叫ぶ。
 逃げようと思い、全員が背後を振り返ると、
 
 
 「もう一匹いるぞ!」
 
 
 クロノが言った通り、モノクロモンがもう一匹、子供達の視界に入った。
 
 
 「まずい…はさみうちにされた!」
 
 フェイトが焦りを抑えるような声で言った。なのはが叫ぶ。
 
 
 
 「みんな逃げよう!!」
 
 
 
 それを合図に、皆が一斉に走り出し、二匹のモノクロモンにはさまれていた大きな岩の陰に隠れた。
 二匹のモノクロモンは子供達には目もくれず、ガキィン、と角同士をぶつけ始めた。尾が岩を砕く音、角と角がぶつかり合う音がそこらじゅうに響く。
 
 
 「あの子達、仲間同士で戦ってる!」
 「どうして!?」
 「縄張り争いでっしゃろな」
 〈おそらくそうでしょう〉
 
 なのはとすずかの疑問に答えたのはテントモンとレイジングハート。なんでもない風な口調からみるに、おそらく日常茶飯事のことなのだろう。
 
 
 「今のうちに行きましょ!行きましょ!」
 「あ、待ちなさいよパルモン!自分だけ先に逃げないでよ!」
 
 そう言って森のほうへ逃げ出したパルモンとアリサを先頭に、なのは達も続いて、モノクロモン同士の争いから離れた。
 
 
 「あっ!」
 「アリシア!」
 
 
 必死に皆に追いつこうと走っていたアリシアが転び、パタモンがアリシアの身を案じて名を呼んだ。アリシアの後ろ、すなわち最後尾を走っていたフェイトが「大丈夫!?」とアリシアに声をかけた。
 
 
 「平気!?アリシアちゃん!」
 「うん!」
 
 
 なのはに返事をして、アリシアはすぐに立ち上がり、再びすぐに駆け出した。フェイトが一瞬、微妙な表情を浮かべて、駆け出すアリシアを目で追った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 どれぐらい走ったのかわからない。
 いつの間にか太陽は傾き始め、夕日が辺りを照らしていた。
 
 「つ、疲れたぁ……足、明日筋肉痛になるわね」
 「アリサの足細いね。足は太いほうがいいんだよアリサ。その方が体を支えるにも土を蹴るにも」
 「…アグモンと一緒にしないで」
 「そうよ~。足っていうのは根っこみたいな方が素敵なの!」
 「それもヤダ」
 「えぇ~…」
 
 アリサとアグモン、そしてパルモンがやりとりをする隣で、はやてとすずかが会話をする。
 
 「それにしても、奇妙な色の夕焼けだね」
 「そろそろ日が暮れるみたいやな」
 「どうしようか?暗くなってから進むと危険だよね?」
 
 するとテントモンが突然羽を開いて飛び始めた。
 
 「…匂う~、匂いまっせ、真水の匂いや!」
 
 そう言いながら高い木の枝に止まり、周囲を眺めるテントモン。あるものを見つけると、テントモンは大声で叫んだ。
 
 
 
 「あーっ!!飲み水確保や!湖!湖でっせー!あそこでキャンプしまへんかー!?」
 
 
 
 「あたしは賛成よ!もうこれ以上歩けない…」
 「私も、今日はここまでにした方がいいと思う」
 「みんな疲れて、お腹もすいてきたしね」
 
 アリサとフェイトの意見に、なのはが同意する。それに頷いて、クロノが言った。
 
 
 「よし、今夜はあそこでキャンプだ!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「わぁ、大きな湖ー!!」
 「ここならキャンプに最適やな」
 
 無事湖に到着した一行の目の前に広がる巨大な湖を見て、ピヨモンとはやてが感嘆の声をあげた。
 
 「ねぇ、キャンプってつまり野宿ってことよね?」
 「にゃ?そうだけど…」
 「ふぅん…まぁ、いっか」
 
 なのはの返事に、アリサは少し考えたが、特に気にしないことにした。
 
 
 (まぁ、元はといえばキャンプしに来たわけなんだし)
 
 
 アリサが考えていたのは、そういう話だった。
 
 
 
 
 
 その時、どこからか突然、ブゥン…と音がした。
 一斉にキョロキョロと辺りを見回すと、今度はバツンという音が一回聴こえてきた後に、リンリン、という音が鳴った。子供達の目に入ったのは、湖の中心の小さな島にある―――
 
 「ライトがついた!?」
 「路面電車だぁ!!」
 「どうしてこんなところに…?」
 
 
 
 
  ――――常識からは考えられないが、アリシアの言う通り、路面電車であった。
 
 
 
 
 
 「…なぁ、中に誰かいるんやない?」
 「行ってみよう!!」
 
 なのはが言うと、一行は一斉に路面電車に向かった。
 
 
 
 
 
 路面電車の中に入ってみると、
 
 「誰もいない…」
 
 なのはの言う通り、人は誰もいなかった。
 
 
 「ほんまや…」
 「まだ新しいね」
 「ちゃんとクッションきいてるしね」
 
 はやてとすずか、アリサも路面電車に乗り込みながら口々に言う。
 
 
 「でもわかんないね…昼間の電話といい、どうなってるんだろう?」
 
 なのはの感想が、他の子供達の心情を代弁していた。
 
 
 「まさか、突然動き出すとか…?」
 
 クロノが電車の操縦席に座りながら呟く。なのははやんわりと反論した。
 
 
 「それはないんじゃないかなぁ。線路なんてないんだし…」
 「でもこの中なら眠れそうやな」
 「その前に、そろそろ飯にしまへんか?」
 
 はやての後に続いたテントモンの一言で、夕食の準備が始まった。
 
 
 
 
 
 
 「あ、ゴマモン!そんなとこで泳いだら魚が釣れないよ!」
 
 釣りをしていたすずかとアリシアの近くをゴマモンが泳ぐ。
 
 
 「ラッキー!わてコレ大好物なんや!!」
 
 木の上で好物を見つけて嬉しそうに声を上げるテントモン。
 
 
 「エアー、ショットォ!!」
 「あ、痛ぁっ!!」
 「あははは!そんな技使って果物を取ろうとするからよ」
 
 パタモンが落とした果物がガブモンの頭にぶつかって角に刺さり、それを笑うピヨモン。
 
 
 「これは食べられるキノコよ。…あーっ!そっちはだめ、毒キノコ!!」
 「…伊達に頭に花つけてないわね、パルモン」
 「まぁね」
 
 アリサの前でえへんと胸を張るパルモン。
 
 
 
 
 「よし、夕食の支度といこっか」
 「でも、どうやって火を起こすん?」
 「任しといてー!」
 
 そう言ってなのはとフェイトとはやての前で葉の山に火をつけるアグモン。
 
 「わぁ!ありがとう、アグモン」
 「へへへ~」
 
 なのはが褒めると、アグモンは照れたように笑った。その向こうから、すずかとアリシアが、戦利品としてたくさんの魚を持って走ってきた。
 
 「いっぱい釣れたよー!」
 「ありがとう、すずかちゃん!」
 「よく頑張ったね、アリシア」
 
 なのはとフェイトが、それぞれすずかとアリシアから魚を受け取りながら、言葉をかけた。
 その魚を持ったまま、どう火に当てようかとなのはが考えていると、
 
 「身を崩しちゃうから、魚は遠火で焼くものなんだよ。なのは」
 
 フェイトが魚を火に当てながらなのはに助言した。
 
 「詳しいね、フェイトちゃん」
 
 なのはは感心しながらフェイトを褒めた。すると、フェイトはほんのりと頬を染めながら俯いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 白く輝く月の下の湖畔で、一行は焚き火を囲みながら夕食をとった。
 
 「アリシア」
 「なに?お姉ちゃん」
 「…骨、取ろうか?」
 
 アリシアに“姉”と呼ばれて一瞬ではあるが言葉に詰まったフェイト。
 
 「頭からいっちゃえ!」
 「うん!」
 
 なのはの一言で、アリシアが魚の頭に食いついた。
 フェイトは少し寂しそうな表情でそれを眺めていた。
 
 
 
 
 「ねぇはやてちゃん」
 「んー?」
 
 夕食後、湖の水を汲んでいたはやてになのはは話しかけた。
 
 
 「アリシアちゃんはフェイトちゃんのことを『お姉ちゃん』って言ってるけど、フェイトちゃんは妹がいるなんて言ってなかったよね?どうして?」
 
 以前にそのことに関する事情を軽くだが聞いていたはやては、内心、なのはやアリサ、すずか達に話すべきか悩んだが、
 
 
 
 
 
  ――――なのは達にはいつか、自分で言うから…今は、内緒にしておいてほしいんだ
  ――――ええよ。その時まで待っとるからな
  ――――ありがとう、はやて
 
 
 
 
 
 
 「さぁ…ただ言い忘れてただけやないか?」
 「ふーん…」
 
 
 勝手に言わないと約束していたので、知らないふりをすることにした。
 
 
 そこに、空を見上げながらクロノがやってきた。
 
 「どうしたん、クロノ君?」
 「いやな…方角を確かめようと思ってたんたが、北極星が見つからなくてな」
 
 クロノにそう言われ、なのはとはやても空を見上げる。
 
 「…ほんまやぁ。知っとる星座が見当たらんね」
 「おかしいなぁ。北極星が見えるのは、北半球だけでしょ?」
 「じゃあ、ここは南半球ってこと?」
 「いや、南十字星も見当たらない」
 「ってことは一体…」
 
 なのはが言い切る前に、パタモンがあくびをした。パタモンの隣に座っていたアリシアが「眠いの、パタモン?」と声をかけるが、それに答える前にパタモンは眠ってしまった。その近くで、パルモンとゴマモンも、寄り添うようにして眠っている。
 
 
 「ふぁ~あ、そろそろ寝よっか」
 
 
 夜の闇も深まってきた。なのはがあくびをしながら言うと、すずかが「交代で見張りをした方がいいんじゃないかな」と提案した。
 
 「そうだな。順番を決めよう」
 「はやてちゃんは足のこともあるし、ゆっくり休んでね」
 
 クロノが頷くのを見て、なのはは真っ先にはやてへと言葉を向けた。はやては特に反論もせず、ただ「あれ?…ばれてたんかぁ」と苦笑いした。
 
 「アリシアもね」
 
 フェイトが、アリシアの頭を優しく撫でながら立ち上がり、言った。
 
 「私平気だよー?」
 「いいからいいから。ゆっくり休んで。ね?」
 
 アリシアが反論するも、フェイトに優しく宥められてしまえば、言い返す言葉も思いつかない。アリシアは一言「わかったー」と答えた。
 
 「わかった。じゃあ最初の見張り番は…」
 「私がやるよ!」
 「じゃあ、私がその次で」
 「わかった。アリサとすずかがその次、最後は僕だ。さ、みんな。路面電車の中で寝るとしようか」
 
 クロノの出した議題に、真っ先に立候補したのはなのはとフェイト。見張り番も決まり、皆は最初の見張り番であるなのはとアグモンを残して路面電車に向かった。
 
 
 
 
 
 
 「いつもならベッドで眠れるんだけどね」
 「寝れるところが見つかっただけでも、ラッキーやと思わないとな」
 
 アリサとはやてのやりとりを見て微笑んでたすずかが、皆を見回して言った。
 
 「それじゃあおやすみ!」
 「ああ、おやすみ」
 「おやすみなさーい」
 
 口々にそう言い、眠り始める子供達とデジモン達。
 
 (朝までモンスターが出てこないとええなぁ…)
 (お風呂だけでも、入りたかったかな…)
 (明日も朝から晩までみんなと一緒かぁ…嬉しいな)
 (目が覚めたら元の場所に戻ってるといいんだが…)
 
 はやて達はそれぞれ別のことを考えながら、夢の中へと引き込まれていった。
 
 
 
 
 薄暗い車内で、皆の寝息が小さく響く。
 そのはやて達から少し離れていたところに座っていたフェイトが、ガブモンを小声で呼んだ。
 
 「…ガブモン」
 「ふぇ?」
 「お願いがあるんだけど、アリシアの側に行ってくれるかな?」
 「なんで?」
 「え、ええと、その…ほら、ガブモンって毛皮被ってるし、暖かいし…」
 「…あ、わかった。アリシアを暖めてほしいのか」
 「あ………うん」
 「照れ屋なんだからっ」
 「…………うぅ」
 
 顔を真っ赤にしながら路面電車を降りるフェイトに笑いかけながら、ガブモンはアリシアの方へ向かっていった。
 
 
 
 
 焚き火の側では、アグモンとなのはが見張りをしていた。なのはがあくびをする。
 
 「眠ったら見張りしてる意味ないよ?」
 「あはは…そうだね。ちょっと顔洗ってこようかな」
 
 アグモンの痛い突っ込みに苦笑いしながらなのはは立ち上がると、水辺のほうへ向かった。その際、土と土の間に赤い葉のようなものがあり、なのははそれを踏んでいたのだが、それが小さく動いたことには気付かなかった。
 
 
 
 
 水辺で顔を洗っていると、誰かの足音が聞こえたので、なのはは「誰?」と振り向いた。
 視界に入ってきたのはフェイトだった。
 
 「なんだ、フェイトちゃんか。交代にはまだ早いでしょ?」
 「うん、眠れなくて…。あと、少し話したいこともあったし」
 「話したいこと?」
 
 なのはが聞き返すと、フェイトは「うん、その、アリシアのことで…」と小さく言い、俯いた。
 言いづらい話なのだろうと悟ったなのはは、フェイトが話を切り出すのを待つ。
 
 「…えっと、そういえば妹がいるってなのはやアリサ、すずかには言ってなかったよね、ごめん。私とアリシアは、まぁ昼間言った通り姉妹なんだけど、顔、双子みたいでしょ?」
 「うん。すごくよく似てる。ほとんど同じ顔だよ」
 
 「同じ、か…」とフェイトは呟いて、少し寂しそうに笑った。何故そのような表情をしたのかはわからなかったが、フェイトのその笑顔を見て、なのはは胸が痛くなった。
 フェイトは続けた。
 
 
 
 
 
 「ほとんど、じゃない。まるっきり、同じ顔なんだ。……私は、アリシアの…クローン、だから」
 
 
 
 
 
 「………え?」
 
 
 なのはは自分の耳を疑った。
 
 
 
 「あっ、アリシアはこのこと知らないから言わないでね。アリシアは5歳のときに一度死んじゃってて、アリシアを生き返らせるまでの間に母さんが私を作ってくれたんだ。それで、私がアリシアの代わりで作られたってことを知った時に、アルフがすごく怒っちゃって。だから家を出て、今は別々に暮らしてるんだ」
 「……そう、だったの…」
 「蘇生って、地球では信じられない話だと思うけど、ミッドチルダ…私や、さっき聞いたんだけどクロノが前までいた出身世界だとあり得なくはないんだ。魔法が当たり前の世界だから。…だから、本当はアリシアの方がお姉ちゃんなんだけど、アリシアはそれを知らないから、ちょっと複雑なんだよね」
 「…このこと、アリサちゃん達は知ってるの?」
 「ううん。はやてには昔、話を聞いてもらってたから知ってるけど、アリサとすずかにはまだ。でも、さっきはやてにお願いしてきたから、今、電車の中でおおまかには聞いてると思う」
 
 「そっか……でも、フェイトちゃんはフェイトちゃんだからね!」
 〈マスターの言う通りです〉
 〈私もそう思います、サー〉
 
 フェイトの出生事情に、なんと言うべきか悩んだなのはだったが、自分の本音である一言だけを、フェイトに伝えた。レイジングハートとバルディッシュも、なのはの言葉を後押しした。
 フェイトはハッとしてなのはを見た後、嬉しそうで、それでいて泣きそうな顔をした。そして、若干頬を染めながら、小さく、
 
 「……ありがとう、なのは」
 
 と言って、湖畔のほうへ駆け出していった。
 
 
 
 
 
 
 「…………そう」
 
 電車内では、はやてがフェイトに頼まれた通り、フェイトの出生についておおまかではあるがすずかとアリサに話し終えた後。長い静寂の末、アリサがそれだけ、呟いた。アリシアは、温かいガブモンの隣で気持ちよさそうに眠っている。
 
 「…ごめんなぁ。ずっと黙っとって」
 「いいわよ、別に。はやては、約束ちゃんと守る人だってわかってるから」
 
 アリサがぶっきらぼうに小声でそう言うと、はやては照れ臭そうに頬をかいた。アリサが「それに、」と言葉を続ける。
 
 
 「クロノも起きてるみたいだし、それでプラマイゼロよ」
 「えっ!?そうなん!?」
 
 
 はやては気付いてなかったようで、バッとクロノの方に目を向けた。アリサは、焦っているはやてを見て、「珍しいものが見れたわ」と不敵に微笑み、そのアリサの隣ではすずかが苦笑いをしていた。
 
 
 「…まぁ、ミッドチルダだったらあり得なくはない話だからな」
 
 魔法があるわけだし、と閉じていた目を開いてクロノは言った。
 
 
 「法を破っていなければ問題はない」
 「いやまぁ、確かにそうなんやけど…」
 「僕だって、こっちではただの小学6年生。だが向こうの世界では一応、一人の正式な執務官だ。ミッドのルール違反がどんなものかぐらい、わかっているつもりだよ」
 
 
 「……なぁ、クロノ君って、何歳?」
 「学校では君たちの一個上で通しているが、実際は五つ上だ」
 
 
 
 「ええぇぇぇぇ!?」
 
 
 
 静かな車内に、3人の小声が響き渡った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 なのはがアグモンの元に戻ってくると、優しくて切ない、ハーモニカの音色が聴こえてきた。二人揃って振り返ると、湖を挟んだ向こうの水辺に座ったフェイトが、ハーモニカを吹いているのが見えた。
 「いい音色だね~」と、いつのまにか電車から出てきたガブモンがフェイトに話しかけている。
 その、いかにもフェイトらしい音色を聴きながら、なのはが焚き火の火をつつくと、パキンと音が鳴って、焚き火が弾けた。なのはが「きゃっ!」と短く声をあげた。
 弾けた焚き火は、先程なのはが踏んだ赤い葉のようなものの上に落ちた。すると、その赤い葉のようなものがうねり出し、なのは達のいた島を震わせた。
 
 
 
 
 「な、なに!?」
 
 
 
 
 島の周りの水が、渦を巻いて暴れる。
 その中から、大きな鳴き声をあげて、巨大な水竜が、姿を現した。