デジモンを凶暴化させる、黒い歯車。
 その恐怖は、まだ始まったばかりだった。
 
 
 
 
 
 
 第5話 「電光!カブテリモン」
 
 
 
 
 
 
 子供達とそのパートナー達は、サバンナに似た草原を歩いていた。
 
 「もうだめー…」
 「一歩も、」
 「歩けないよー…」
 
 長時間歩きっぱなしだったせいか、アリサ、ゴマモン、アリシアが、座り込むようにして、ため息混じりに言った。
 
 「限界かな」
 「ずっと歩きっぱなしやったもん」
 「うん。…よし、ここで休憩しよう!」
 
 フェイトとはやての発言も受けて、なのはがそう提案した。
 
 
 
 
 
 皆に休憩が言い渡されてすぐに、すずかはアリサの隣に座ると、黄色いパソコン――サマーキャンプに出発する前に姉から授かったものだ――を開いた。そして、キーボードをカタカタと叩いてパソコンの起動を試みた。
 
 「…うーん、やっぱり動かないかなぁ」
 
 だが結果は、だめだったらしい。
 
 
 「そういう時は…こう叩くと直るんじゃないかな?」
 
 するとそれを見ていたなのはが、すずかのパソコンを斜めからコンコンと叩いた。
 
 
 「わっ、ちょっと待ってなのはちゃん!」
 
 すずかは慌ててなのはの行動を止めた。なのはとすずかのやりとりが落ち着くのを確認して、はやてはなのはに尋ねた。
 
 
 
 「…なのはちゃん、叩くと直るって、誰から聞いたん?」
 「え、違うの!?右斜め45度の角度から叩くと良いって聞いたんだけど」
 「だから、誰からや?」
 「さっき、レイジングハートから」
 「レイジングハートォ!純粋な小学5年生に何教えとるんやぁっ!!」
 〈ほんのちょっとした出来心で、つい〉
 
 
 事情を聞いたはやてが、飄々とした態度でなのはの胸元に鎮座しているレイジングハートに向かって叫んだ。関西人の血が騒いでいるのか、ツッコミは、曇りのない、まっすぐなものであった。
 
 
 
 
 「…じゃあ、右斜め60度の方が良いってこと?」
 〈そういう問題じゃありません、サー〉
 
 
 
 
 その日の同時刻、一部始終を見ていたフェイトの呟きに的確なツッコミを入れるという、バルディッシュの珍しい一面が見られたという。
 
 
 
 
 
 
 
 「ん?」
 
 先程の一騒動の後、なのはは遠くをぼんやり見やっていると、黒い煙が遠方で上がっていることに気付いた。
 
 「あれは…?」
 「あ~なのは待って!」
 
 小さく呟きながら駆け出すなのはに気付いて、アグモンがその後を追った。
 
 「どうしたんだ?なのはは」
 「さぁ…?」
 
 立ち話をしていたクロノとフェイトが、なのはを見ながら言った。
 
 
 
 
 
 一方、しばらくパソコンをいじっていたすずかの方にも、変化があった。
 
 「…あれ?」
 
 パソコンの画面が明るく光り出したのである。画面上には、“起きます”と“動きます”の文字。
 
 「やった!直った!!」
 
 パソコンは起動したようだった。すずかは喜びの声を上げた。だがその明るい表情はすぐに消え、代わりに怪訝な表情がすずかの顔に浮かび上がった。
 
 「でも、バッテリーが0になってるのに、動いてる……どうして…?」
 「ねぇ、みんなぁ!!」
 
 すずかがさらに起動の原因を考察しようとした時、皆の耳になのはの呼びかける声が聞こえてきた。
 
 
 
 
 
 
 なのはのもとへ、皆が向かうと、その先に、茶色い大きな建物が見えた。
 
 「あれはっ!?」
 「工場だ…!!」
 
 クロノが、驚きの声で、言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 工場の中に入った子供達。中では、カンカンと音が響き、いくつもの大きな歯車が、何枚も噛み合わさってくるくるとあちこちで回っていた。
 
 「ねぇ、何作ってるの?」
 「なんだろう。…調べてみないとわからないかな」
 
 アリシアが、ベルトコンベアの上を進みながら組み立てられているものを見て、フェイトに尋ねる。フェイトにも、その物体が一体何なのかはわからなかった。
 
 「調べるのなら、人がいるかどうかも兼ねて調べてみた方がいいだろうな。これだけの工場なら、誰かいてもおかしくはないんだが…」
 「そうね。なら、二手に分かれましょ。そうやって探した方が効率が良いわ」
 
 クロノの提案に同意したアリサの言う通り、工場内の探索と人間の捜索は二手に分かれて行うことになった。
 
 
 
 
 
 「誰かー!」
 「誰かいませんかー!」
 
 
 なのはとはやてとクロノ、そしてそのパートナー達は、工場内を歩きながら、人間の捜索をしていた。
 
 
 「…誰もおらへんのかな」
 「かもしれないな。機械を動かしている人間がいるかと思ったんだが…」
 
 はやての呟きに、言葉を返すクロノ。
 
 
 「あれ?」
 
 その時、不意にピヨモンが声を上げた。
 
 
 「どうしたんや、ピヨモン?」
 「何か聞こえる!」
 「え?」
 
 ピヨモンの言葉を聞き、半信半疑で耳をすませる一同。
 すると、微かではあるが、機械音に紛れて小さな音が聴こえてきた。
 
 「…これって!?」
 「人の声、なのかな?」
 
 なのは達は、音の聴こえた方へと歩を進めた。
 
 
 
 
 
 一方のすずか達は、 “POWER SUPPLYR”と書かれた標識が貼られた扉の前に立っていた。
 
 「動力室だね」
 「中に入ってみようか」
 
 すずかが言い、フェイトの一言で扉の中へと足を踏み入れる一行。
 中に入った瞬間、一行は顔を見上げて驚きの声を上げた。
 
 「お化け電池とモーターだ!こんなもので動かしてるだなんて…!」
 
 すずかが、目の前の光景を見て言った。声音には、少なからず、感嘆の意が込められていた。
 
 
 
 
 
 なのは達は、工場内を走り続けていた。
 
 
 「あっ、あれ!!」
 
 
 アグモンが不意に立ち止まり、遠方を指差した。
 皆がアグモンの視線の先を追うと、様々な大きさの歯車がひしめいている部屋に、人らしき姿が見えた。
 
 
 
 「なんやろう…機械の歯車に巻き込まれとるみたいや」
 
 
 倒れている人間のような姿をした生き物を見て、はやてが言った。だが、体は灰色で、硬質な印象が見受けられる。
 
 
 「ロ、ロボット?」
 
 故に、なのはがそう呟くと、
 
 
 「ロボットじゃない、アンドロモン!」
 
 ゴマモンが、明るい声でその問いに答えた。
 
 
 
 「えぇっ!?この人もデジモンなの!?」
 「そう。しかも良いデジモン!」
 「それに、すごく進化したデジモン!」
 
 
 なのはの驚きに、アグモンとピヨモンが付け加えるように言った。
 なのは達が知るのはまだ先のことであるが、この、アンドロモンというデジモンは、グレイモンやガルルモンなどの“成熟期”デジモンの1ランク上の進化系――“完全体”デジモンに分類される。
 
 
 
 
 「進化した、って…グレイモンとどっちが上なの?」
 「断然、アンドロモン!」
 
 ゴマモンが言うには、アンドロモンというデジモンは、グレイモン以上に強くて良いデジモンのようだった。
 
 
 「まぁどっちにしろ、人間じゃなかったわけか…。だが、かなり進化しているなら、何か知っているかもしれないな」
 
 
 クロノが言った言葉に、はやても頷いて同意した。
 
 
 「それに…このままじゃかわいそうや。助けてあげよう?」
 「うん!」
 「だな」
 
 
 満場一致の意見で、一同は、アンドロモンを助けることにした。
 
 
 
 
 
 「すずか。まだ調べる?」
 
 お化け電池の外装を触りながら、仕組みを調べているすずかを見て、フェイトが尋ねた。
 すずかは頷いた。
 
 「うん、もう少し…。先を急ぐなら、フェイトちゃん達だけで行ってていいよ」
 
 そう答えて、すずかは目の前に佇むお化け電池を見上げた。
 
 「私は、もうちょっとだけこれを調べてみたいんだ」
 
 
 
 
 
 「よいしょ、よいしょ…!」 
 
 なのは達は、アンドロモンの救出作業を行っていた。下半身が大きな歯車に挟まり、意識の無いアンドロモンの両腕を引っ張っていた。
 
 「よいしょ、よい、しょっ…!きゃっ、痛っ!」
 
 アンドロモンの腕を引っ張る力が強すぎたのか、なのはは勢い余って、後方へ転ぶように尻もちをついた。その際、後頭部に何らかのレバーが激突し、図らずもなのははそのレバーを動かしてしまった。
 するとレバーの作用なのか、大小様々な大きさの歯車達がカタカタと動き始め、アンドロモンの下半身の拘束が緩くなった。
 
 
 
 ――同時に、歯車達の間に紛れこんでいた黒い歯車が、アンドロモンの右足に埋め込まれていった。
 
 
 
 
 「よい、しょっと…ふぅ、やったぁ!」
 
 黒い歯車のことなど知る由もないなのは達は、ひとまず歯車に挟まれていたアンドロモンを助けることには成功した。
 
 
 「起きないね、アンドロモン」
 
 目を覚まさず、小さく呻くアンドロモンを見て、アグモンが言った。
 
 
 「こういう時は、右斜め45度で叩けば…」
 
 そう笑顔で言いながら左手の拳を高く振り上げたなのはを、はやてとクロノが二人がかりで慌てて制止した。
 
 
 「待つんやなのはちゃん!」
 「いくらなんでもそれはまず…」
 
 
 クロノが“いくらなんでもそれはまずいだろう”と言いかけた瞬間。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ガンッ、と清々しい音が一つ、辺りに響いた。
 
 
 
 
 「あ…」
 
 〈見事な右斜め50度です、アグモン〉
 
 
 
 
 
 アンドロモンの顔面を叩いたのは、なのはではなくアグモン。
 皆が呆然とした表情で言葉を失う中、レイジングハートだけが、なんともない風に呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 ―――砂嵐だった画面が、クリアになっていく。
 
 
 「だめだろう!機械は叩くもんじゃない!」
 
 
 ―――デジモンではない何かの生き物、黒髪の少年が亜麻色の髪の少女と黄色いデジモンに注意しているのが見えた。
 
 
 「そうやで。叩いたから、余計壊れてもうたかもしれへんし…」
 
 
 ―――茶髪の少女が、困った顔でこちらを覗き込んでいることに気が付いた。
 
 ―――以前に認識でもあっただろうか?検索をかけてみる――――該当者なし、答えは否。
 
 
 「…なのはが魔法を覚えたら、こんなものじゃ済まない気がしてきたな」
 「ちょっとクロノ君!それどういう意味!?」
 
 
 ―――他のデジモン達をここに招き入れるように手配をしたか?――――答えは否。
 
 
 「決めた。なのはに魔法は教えない。絶対教えない」
 「クロノ君ー!」
 
 
 ―――見知らぬ生き物、こんなところにいるはずのないデジモン。
 
 
 ―――これらを根拠に、現状を、異常事態だと判断。
 
 
 
 
 ――――よって、侵にゅうシャ ヲ、  ハ イジョ  スル。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 アンドロモンの顔を覗き込んでいたはやては、突然、アンドロモンに右足を強く掴まれた。
 
 
 「きゃあっ!!」
 
 
 アンドロモンははやての右足を片手で掴んだまま、スッと立ち上がった。アンドロモンの目が、不気味に蒼く光っている。
 
 
 
 
 「や、ちょっと…なんなんこれ!?」
 「シンニュウシャ、ホカク」
 
 はやてが、突然の事態に慌てる。だが、その声はアンドロモンの耳には届いていないようだった。
 
 
 
 「何するの!?」
 「はやてー! マジカルファイヤー!!」
 
 なのはがアンドロモンに向かって叫び、その傍から飛び出したピヨモンが、アンドロモンに向かって背後から攻撃をした。
 アンドロモンは顔だけ振り返り、ピヨモンの攻撃を真正面から受けたが、攻撃は全く効いていない様子だった。
 
 
 
 「え、ちょ、わあぁっ!!」
 
 
 
 
 無表情なままのアンドロモンは、右腕を大きく振りかぶり、はやてをなのはとアグモンに向かって投げつけた。
 なのはとアグモンがはやてをキャッチする。だが、アンドロモンの力が強すぎたので、勢いに負けてなのはとアグモンも尻もちをついてしまった。
 アンドロモンが、なのはとはやてに向かって、ガションガションと、一歩ずつ近付いてくる。
 
 「彼は、良いデジモンじゃなかったのか!?」
 「そのはずなんだけどぉ…」
 「じゃあどうして!?」
 
 クロノが緊張した面持ちでゴマモンに問うが、ゴマモンも事情がわからず混乱していた。
 
 
 前に立つアグモンとピヨモンに庇われながら、アンドロモンを睨みつけていたなのはだったが、ふと、何かを思いついた表情になった。
 
 
 「アグモン、天井を狙って!」
 「うん!」
 
 
 アグモンにそう指示するなのは。アグモンもその指示に忠実に従った。
 
 
 「ベビーフレイム!!」
 
 
 アグモンが放った火球は、アンドロモンの頭上――天井付近の鉄柵を容易に溶かした。熱によって天井から切り離された鉄パイプは、重力に従って、大きな音を立ててアンドロモンの上に覆い被さる。アンドロモンは、しばらく身動きが取れなくなった。
 
 
 「よし、今のうちに逃げよう!」
 「うん!」
 「ああ!」
 
 
 
 こうして、なのは達とアンドロモンの追いかけっこが、始まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ベルトコンベアに乗せられた何かの物体が、様々な部品を取り付けられていく。
 フェイト達は、まだ動力室を調べたいと言ったすずかを置いて、先に進んでいた。
 
 「一体何を作ってるんだろう?」
 
 アリシアがポツリと呟いた。アリサはその言葉を聞き逃さなかった。
 
 「きっとすごいものなのよ。時間を逆戻りさせちゃう機械とか、大人と子供が入れ替わっちゃう機械とか、そういうの」
 「すごいね、それ!!」
 「でしょ?」
 
 アリシアの興奮した表情と声を聞いて、アリサとフェイトは満足そうに笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 熱心に動力室を調べていたすずかが、あるものに気付いたのは、フェイト達と分かれてすぐのことだった。
 
 「あれ?こんなところにドアが…」
 
 とりあえず、お化け電池に作られていた扉を開いて中を覗いてみようと考えたすずか。
 お化け電池の内装には、規則的にびっしりと、暗号のような文字列が記されていた。中には、ハングル文字もある。
 
 
 
 「これ、何でっか?」
 「コンピュータのプログラムだ…!」
 
 
 テントモンの問いに答えながら、すずかはとある文字の一つに触れた。
 すずかは少し強くこすってしまったようで、触った文字の一部が欠けてしまった。
 
 その瞬間。
 
 
 
 
 バツン、という音とともに、工場全体の照明が落ちた。
 
 
 
 
 「あれぇ?」
 
 アリシア達のいた部屋のベルトコンベアも、その機能を停止させた。
 
 
 
 
 
 
 
 アンドロモンから逃げているなのは達がいた廊下も、照明が落ちて真っ暗になった。なのは達は思わず足を止めた。
 
 「こ、今度は何!?」
 「ブレーカーが落ちたのか!?」
 
 すると、背後から再び、あの独特の機械音が聴こえてきた。なのは達は、アンドロモンが追いついてきたのだと、すぐに悟った。廊下の向こうに、不気味に蒼く光る二つの光――アンドロモンの目だ――が見えた。なのは達の顔に、緊張の面持ちが浮かぶ。
 
 「どないしよう…」
 「暗いから、きっと彼にも私達の姿は見えないよ!」
 「確証は無いがな」
 
 焦りを抑えるように、なのはが静かに言った。
 
 「息を殺して、静かに移動しよう」
 
 
 なのは達がそう判断した直後、アンドロモンが、ふと足を止めた。
 その際に、アンドロモンの眼の輝きが、深い青から赤色へと変化した。眼のカメラ機能を切り替えたのである。
 よって、アンドロモンの眼は、こそこそと動くなのは達の姿を容易に捉えた。
 
 
 
 「シンニュウシャ、ハッケン。 スパイラルソード!!」
 
 
 
 “侵入者を発見”したアンドロモンが、直ちに攻撃態勢に入った。
 右手首から先を高速で回転させ、カマイタチのような刃を作り、それをなのは達に向かって放つ。
 
 
 
 「えっ!?」
 
 
 
 なのは達が背後の異変に気付き、振り返ったのは、スパイラルソードが放たれてからであった。
 
 
 
 「わあああっ!!」
 「きゃあああっ!!」
 
 
 
 なのは達は、一斉に、廊下の脇道へと身を投げるようにして、その刃の直撃を回避した。
 背後で、壁に激突した刃が、大きな音と衝撃を立てた。
 
 
 
 
 
 「ありゃ。工場中の機械が止まってまっせ~?」
 
 扉の外を覗きながら、テントモンが言った。
 
 「プログラムを間違って消したせいかな…?」
 「どうでっしゃろ…。せや!消したとこ直せばわかるんちゃいまっか?」
 「…それもそうだね」
 
 テントモンの助言を受けて妙に納得したすずかは、ペンを取り出して、先程削ってしまった文字の一部を書き加え直した。
 すると、
 
 
 「あっ!」
 
 
 バツンという音とともに、再び、工場内に明かりが灯った。
 
 
 
 
 
 
 
 アリシア達がいたベルトコンベアも、再び起動し始めた。
 
 「また動き出した!」
 
 アリシアが驚きながら言った。
 
 「よし、先に進んでみよう」
 
 フェイトが、一行に提案した。
 
 
 
 
 「それにしても不思議…」
 「何がでっか?」
 
 すずかの呟きに、疑問をぶつけたのはテントモン。
 
 
 
 「普通、電池はね、金属と溶液の化学変化によって電気を起こすの。でもこれは違う。壁に書かれたプログラム…それ自体が電気を起こしているみたい」
 「んー…なんや難しそうな話でんなぁ」
 
 壁一面にびっしりと書かれた文字を見上げながら説明するすずか。テントモンは、いまいち理解しきれていないようだった。
 
 
 「…そうだ!このパソコンなら…」
 
 すずかはそう言って、何かをひらめいたような表情でカタカタと黄色いパソコンのキーボードを打ち始めた。
 
 
 「今度は何をしはるんです?」
 「このプログラムをちょっと分析してみようと思うの。パソコンも使えるみたいだから」
 
 そう語るすずかの表情は、好奇心に胸をときめかせる少女そのものだった。
 
 
 
 
 
 
 
 「…この状況になるなら、助けない方がよかっただろうか」
 「呑気に言っとる場合やないでクロノ君!あれは多分叩いてもうたから…!」
 「クロノ君もはやてちゃんも、今ものすごく立てこんでるから、そういう話は後にしてほしいの!全部終わったら謝るから!」
 
 
 なのは達は鉄橋を走っていた。背後には、アンドロモンが迫ってきている。
 
 
 「シンニュウシャ、ハイジョ…。 スパイラルソード!!」
 
 
 アンドロモンが再び攻撃を仕掛けてきた。青白く光る刃がこちらに向かって飛んでくる。
 こちらは鉄橋の上。前後に伸びた一本道で、向こうへ渡りきるまでにはまだ距離があった。先程のように左右にはかわせない。
 また、下に飛び降りられるほどの高さではない。今いるこの部屋の空間が広いので天井も高い。 
 
 
 
 
 つまりは―――逃げられない。
 
 
 
 
 
 「わあああっ!!」
 「きゃああっ!!」
 
 
 
 
 
 なのは達は、まさしく絶体絶命の状況下にあった。