アンドロモンの攻撃が飛んでくる。
 
 なのは達はとっさに、橋の手すりをしっかり握ったまま、身を宙に投げ出して橋の外側にぶら下がった。
 その直後に、アンドロモンのスパイラルソードが橋の上を通り過ぎていった。間一髪であった。
 橋の向こうで、スパイラルソードの攻撃がどこかに当たったのか、大きな爆撃音が聴こえた。
 
 「あっ…!!」
 
 すると今度は、アンドロモンがこちらに向かって再び歩き始めた。アンドロモンが、着々と、確実に距離を詰めてくる。
 なのは達は先程の攻撃のこともあって、橋の上にも戻れぬまま、手すりにぶらさがったままであった。
 
 「どうしたら……っ! あれは!」
 
 なんとかしてこの状況を脱する方法は無いかと、辺りをせわしなく見回すなのはは、橋のすぐ下にあるクレーンに気付いた。
 
 
 
 
 
 
 
 「すずかはんの顔、なんや今までになく生き生きしてまんなぁ」
 
 解析を試みようとパソコンのキーボードを素早く叩いているすずかを見ながら、テントモンが感心したように言った。
 
 
 
 「そうかな?」
 「はいな。どこが楽しいんでっか?」
 
 テントモンの発言を聞いて、やっとパソコンの画面から離れ、問うテントモンの方に顔を向けたすずか。
 彼女は明るい表情でテントモンに答えた。
 
 「暗号や古代文字を解読するのに似た楽しさ…かな?」
 「ふ~ん、解読する楽しさねぇ…。で、解読して、何かええことあるんでっか?」
 「えっと、もしかすると、謎が解けるかもしれないんだよね。この世界がどういう世界で、君たちが何者か、とか」
 
 すずかの答えを聞いて、テントモンは、いまいち理解ができていないような風で言った。
 
 「ここがどこで、自分が何者かなんて、ウチさっぱり興味がおまへんなぁ」
 「そう……」
 
 そしてテントモンは続けざまにこう尋ねた。
 
 
 「すずかはんは、自分が何者かなんて、興味ありまっか?」
 
 
 「!! ……私は、」
 
 
 
 
 途端に、すずかは言葉を詰まらせた。ある晩の出来事を、唐突に思い出したからである。
 
 
 
 
 
 ―――夜の闇に静まりかえった、すずかの家の居間。
 
 ―――扉の隙間から見えた姿は、姉と、月村家が雇っている二人のメイドのもの。
 
 
 
 
  「…忍様。いつになったら、すずか様に本当のことを…?」
  「もう少し…もう少し、待とうと思ってる。今話したら、すずかはきっとショックを受ける。私がそうだったようにね」
 「…そうですか」
 
 
 
 ―――それが、私が何者かということについての話だったと気付かされたのは、もう少し経ってからで――――
 
 
 
 
 
 
 「…ずかはん、すずかはんっ!!」
 
 すずかは、テントモンの呼び声によって現実に引き戻された。
 
 
 「!! …な、何?」
 「おかしいで、これ…ほれ、見てみなはれ」
 「えっ?」
 
 テントモンに言われるがまま、再びパソコンの画面に目を向けるすずか。
 その画面の中で、異変は起きていた。
 先程まですずかが打ち込んでいた文字列が、ひとりでに移動し始めたのだ。
 
 「勝手に動いてる…!?」
 
 するとその直後、すずかが自分のリュックの腕に付けていた謎の機械にも異変が起こった。
 
 「こっちも、光り出した…!!」
 
 チカチカと明滅しながら、謎の機械が電子音を立てて鳴る。
 目の前で起こっている奇妙な出来事に、すずかは言い知れぬ不安と期待と好奇心がごちゃ混ぜになった感覚を味わっていた。
 
 
 
 
 
 
 「えぇーーーーっ!?」
 「なんなのこれぇ!!」
 
 着々と先を進んでいたフェイト達であったが、ベルトコンベアの終着点に着いた途端、アリシアとアリサが目の前の光景を見て大声で叫んだ。
 
 〈順番まで全て逆進行ですね〉
 「…………………みたいだね」
 
 バルディッシュとフェイトが言うように、取り付けられていた部品が全て順番に外されていき、最後には元の形に戻って再びベルトコンベアの先へと運ばれていく。このベルトコンベアの先は、おそらく最初に出発した場所に繋がっている、とフェイトはなんとなく想像がついた。
 
 
 
 
 
 すずかのパソコンの異変は次第に規模の大きなものになっていた。
 
 「なっ…」
 
 勝手に動き出した文字列がある設計図を組み上げる。それはどことなく今いる工場の形状に似ていた。
 そして、その工場がある場所を覆いこむように、さらに大きな楕円上のものが形成されていく。
 やがてそれは二次元の壁を突き破り、広がりを見せながら三次元の中で表現された。
 
 最終的に出来た構図は、テンガンロンハットのような、一つの細く大きく伸びた山を中心に持つ陸のようなもの。
 
 「これは…!?」
 
 すずかが、更にパソコンの画面上に現れた謎のプログラムに迫ろうとしたところ、
 
 
 
 「あぢ、あづっ、あぁあちあちあづっ、ああああつつ熱いっ!体が熱いがなぁっ!!」
 
 
 
 テントモンが体中から湯気を上げ、両腕を振り上げながら、足も動かさずにはいられないように、ジタバタしながら叫んだ。
 
 
 「どうしたの!?」
 「どうしたんかぁー、ウチにもさっぱりぃー!ああちあちあつっ」
 
 
 テントモンにも起き始めた異変に困惑する二人。すずかは、リュックの取っ手に付けていた謎の機械を手に取った。
 反応している。それどころか、光の点滅が先程よりも早くなっている気さえした。
 
 
 「あぁつつつあつつつっ、もうたまらんわぁっ!!」
 「これ以上は危険だね…!」
 
 
 テントモンの身体の事も考えて、今はテントモンの安全を最優先することにしたすずかは、パソコンの電源ボタンを押し、パソコンを強制終了させた。画面が暗転する。
 
 「ふぇ……」
 
 テントモンがようやく安堵の息をついた。
 すずかはバッ、と手に握っている謎の機械へと視線を向けた。こちらの機械の画面も暗転していた。
 
 
 無論、先程までの反応も、無くなっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 アンドロモンが迫ってくる。
 自身の真下にあったクレーンに何らかの考えが思いついたなのはは、そのクレーンに向かって飛び降りた。
 
 「見てなさい…!」
 〈操縦の際に生じる僅かな誤差の修正、完了。フォローOKです、マスター〉
 
 言いながら、なのはが二本の青いレバーを動かす。クレーンの操縦に慣れているはずもない小学5年生であるなのはの操縦の少々のズレを、胸元のレイジングハートが逐一修正し、なのはを支えた。
 クレーンが勢いよく動かされ、背後からアンドロモンを襲う。
 
 
 ガンッ、という景気のいい音とともに、アンドロモンの首にクレーンが引っ掛かった。
 
 
 
 「そぉーれっ!!」
 
 
 
 なのはが両腕で、力いっぱい赤いレバーを手前へ動かした。
 ガコンという音とともに、クレーンの先が引き上げられ、そこに引っ掛かっていたアンドロモンも、同時に引き上げられ、宙に吊るされた。
 とりあえず、一時的ではあるがなのは達は危機を脱したようだった。
 
 
 「逃げよう!」
 「この町は危険だ!」
 「みんなに知らせな!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 「要するに、この工場では、製品の組み立てから分解までを、一つの工程としてやっているんだね」
 
 フェイト達は、工場の屋上に出て、これまで見てきたものに対しての結論を出していた。アリシアとデジモン達は不思議そうな表情で、アリサは眼を閉じながら静かにフェイトの話を聞いている。
 
 「組み立てられたものは分解され、分解されたものはまた組み立てられ……それが永遠に続いている」
 「じゃあ、結局何を作っているわけ?」
 
 アリシアが尋ねた。
 
 
 「…何も」
 「え?」
 
 アリシアの問いに答えたのは、彼女の隣にいたアリサだった。閉じていた眼を開き、アリサは言った。
 
 
 「この工場では、実は何も作ってないのよ」
 
 
 
 
 
 
 ―――蒼く輝いた刃が、クレーンのロープを引き裂いた。
 
 ―――アンドロモンは、橋の上に降り立ち、再び子供達の後を追う。
 
 
 
 
 
 
 「みんなー!すごい発見があったよー!!」
 
 フェイト達にようやく追いついたすずかとテントモンが、屋上にやって来た。
 
 
 
 「どんなこと?」
 「うん、この工場ではね、プログラムそのものがエネルギーを作っているの!」
 
 すずかが言った言葉に、自分達の出した結論を照らし合わせて納得しながら、フェイト達はお互いが得た情報をやり取りする。
 
 
 「つまり、この世界では、データとかプログラムとか、本来はただの情報でしかないものが、実体化して…」
 「おぉーい!!」
 
 すると今度は、息を切らせながら走って来たなのは達が屋上へと到着した。
 
 
 「何か見つかった?」
 
 フェイトがそう尋ねると、
 
 
 「逃げて!アンドロモンが――!」
 
 
 なのはが有無を言わせぬ迫力で、そう答えた。
 
 
 
 だが、少し遅かった。
 なぜならば―――
 
 
 
 「きゃあああっ!!」
 「うわあああっ!!」
 
 
 
 ――――次の瞬間には、屋上の真下から天井を突き破り、フェイト達となのは達の間を裂くような形で、アンドロモンが姿を現したのだから。
 
 
 アンドロモンは、ゆっくりと身を起こしながら、正面にいたフェイト達に視線を向けた。
 デジモン達が、パートナーを守るべく、身構える。
 
 
 
 「シンニュウシャ、ショウニン。 ガトリングミサイル!!」
 
 
 
 フェイト達をも“侵入者”として“承認”したアンドロモンが、胸板から、二つの魚のような形をしたミサイルを発射した。
 フェイト達はとっさに左右に分かれてこれを避けようと判断し、行動に移したが、途中でアリシアが転び、逃げ遅れた。
 
 
 
 「いやだぁーーーっ!!」
 
 アリシアが、助けてと叫んだ。
 
 
 
 「アリシア!!」
 「オレに任せて!!」
 〈今助けます!!〉
 
 フェイトの意思を察したガブモンが、光に包まれながらフェイトの前へ飛び出した。同時に、フェイトのズボンに付いていたバルディッシュが、すずかの目の前で光り輝いた。
 
 
 「ガブモン進化! ガルルモン!!」
 
 
 アリシアの目の前に迫ったガトリングミサイルを、ガルルモンが前足で蹴り上げた。ミサイルの軌道がずれ、二つのミサイルは宙に投げ出される。
 それによって、片方のミサイルは暴発したが、もう片方のミサイルは、自身で勝手に軌道を変えてなのは達に迫った。
 
 
 「なっ!?」
 
 
 なのは達に向かって飛んでくる魚のような形をしたオレンジ色のミサイルは、迫りながら、ニヤリと笑っていたようなその口を開いた。中には、連射式のミサイル。
 ダダダダダ、とミサイルが連射された。なのは達は、悲鳴を上げながらそれらをかわす。
 クロノが魔法が使えないか試していたが、魔力は結合せず、ただ空中で霧散するだけであった。
 
 
 〈アグモン、行きますよ!スタンバイレディ、セットアップ!!〉
 「オッケイ!!」
 
 体勢を立て直し、意気込んだアグモンに同調するように、レイジングハートが輝き出した。
 
 
 「アグモン進化! グレイモン!!」
 
 
 グレイモンは進化を終えると、とっさに、自身の尾でミサイルをはたき落とした。ミサイルは潰された衝撃で爆発し、消滅する。
 その直後、すぐさま襲いかかってきたガルルモンを背負い投げ、背後から攻めてきたグレイモンもろとも下に投げ飛ばしたアンドロモンは、二匹を追うようにして下に飛び降りた。
 
 
 「グレイモン!!」
 「ガルルモン!!」
 
 
 なのは達のいる屋上の少し下――別の建物の屋上で、二匹と一匹は対峙していた。
 投げ飛ばされた際のダメージが大きかったようで、グレイモンとガルルモンは、痛みに耐えながら立ち上がっているように見て取れた。
 だが、黒い歯車に操られているアンドロモンは容赦をしない。
 
 
 「スパイラルソード!!」
 
 
 
 アンドロモンのスパイラルソードが、ガルルモンの眉間に命中した。
 
 
 
 
 「メガフレイム!!」
 
 
 アグモンが火球を吐きだして反撃するが、アンドロモンはその炎を腕で引き裂いた。
 グレイモンのメガフレイム程度の熱ならば、耐熱仕様になっているのかもしれない。
 
 
 
 「フォックスファイヤー!!」
 
 
 ガルルモンもアンドロモンに攻撃を仕掛けるが、グレイモンの攻撃と同じように、蒼い炎は足技でかき消されてしまった。
 
 
 
 
 
 
 「なるほどね…確かに進化してる」
 
 アンドロモンに追われたいきさつ等をなのは達から聞いたフェイトが冷静に言った。
 
 
 「パワー、スピード…どれを取っても私たちのデジモンより上やね」
 
 はやてがシャツの胸のあたりを強く握りしめながら言った。表情は、堅い。
 
 
 「どうやったら勝てるの…!?」
 
 なのはが、悔しそうに言った。目の前では、グレイモンがアンドロモンに噛みつこうとしているのが見える。
 アンドロモンはその細くも頑丈な腕でグレイモンの口を押さえつけ、そのまま、背後から飛び掛かってきたガルルモンをグレイモンで叩きのめし、一網打尽にした。
 鈍い音が、衝撃とともに地面を揺らした。
 
 「頑張って、グレイモン!!」
 「ガルルモン、しっかり!!」
 
 なのはとフェイトが、自分達のパートナーを応援し続けている。
 
 
 すると、それを見ていたテントモンが、何かを決意したようにすずかに向き合った。
 
 
 「すずかはん!さっきのあのプログラム…!」
 「……いいの?」
 「はいな!!」
 「……よし!」
 
 
 すずかが、再びパソコンの電源を入れた。
 
 
 「いくよっ!!」
 
 
 先程、バックアップとして保存しておいたデータを、再び画面上に表示するすずか。
 画面の中で文字列がひとりでに動き出し、謎の機械が、それに同調するように明滅し――そして光り輝いた。
 謎の機械から、真っ白なコードが天へと伸びた。
 
 
 「おぉお!?なんや、力がみなぎってくるぅー!!」
 「大丈夫!?」
 
 
 すずかがテントモンの身を案じるが、杞憂のようだった。
 テントモンの体が、まばゆい光に包まれる。
 
 
 
 「テントモン進化! カブテリモン!!」
 
 
 
 「やったぁ!!」
 
 なのはが、希望が見えたと思いながら喜んだ。
 テントモンが進化した姿――カブテリモンは、すぐさま背中の四枚の羽を動かして、グレイモンとガルルモンの援護に向かった。
 
 
 
 
 カブテリモンはアンドロモンに頭突きを仕掛けた。
 アンドロモンはそれをひょいとかわし、カブテリモンは地面のコンクリートに頭を激突させたが、頑丈なのか、なんともない風で再び空高く上昇した。そして、もう一度アンドロモンに頭突きを仕掛けるカブテリモン。
 アンドロモンは、カブテリモンの頭部を両腕で止めた。アンドロモンの足が、カブテリモンの勢いに負け、少しずつ、地面にめり込んでいく。
 
 
 「ガトリングミサイル!!」
 
 
 やむを得ずカブテリモンを右に受け流し、追撃としてミサイルを放つアンドロモン。カブテリモンは、ミサイルから逃げるため大空を駆ける。
 
 
 「…くそっ!アンドロモンに弱点はないのか!」
 「弱点……」
 
 悔しそうに言うクロノの発言を聞いて、困ったような表情で呟くすずか。三対一ではあるが、今のままだと勝てないことは皆が薄々感じている。皆が空を飛ぶカブテリモンの戦いに目を奪われている中、すずかはアンドロモンを見下ろし、弱点が無いか観察した。
 
 
 
 「……あっ!」
 
 
 そして、すずかは見つけた。
 勝機となる、相手の弱点を。
 
 
 
 ―――アンドロモンの右足に、小さく蒼い電流が走っていることに。
 
 
 
 「カブテリモン!右足!アンドロモンの右足を狙って!!」
 
 空ですずかの指示を聞いたカブテリモンは、返事はしなかったものの、わかったとでも言うように、ミサイルを右手ではたき落した後、アンドロモンの元へと急降下した。すずかの長い髪が、風に煽られて乱れた。
 
 
 
 
 「メガブラスター!!」
 
 
 
 
 カブテリモンが、紫電のまとった弾を放った。
 その雷撃が、すずかの指示通りに、アンドロモンの右足に命中した。
 
 「あれは…」
 
 すると、アンドロモンの右足の中から黒い歯車が現れ、宙に浮かび上がり、そのまま霧散した。
 はやてが、思わず自身の胸元を見る。先程までの痛みは、もう無くなっていた。
 
 「消えた…」
 
 思いもしないものの急な登場――そして退場に呆然としながら、なのはが呟いた。
 
 
 
 「邪心ガ、堕チタ――」
 
 正気を取り戻して膝をついたアンドロモンが、静かに、そう呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「機械ニ紛レコンダ黒イ歯車ヲ取ロウトシテ、アンナコトニナッテシマッタ…」
 
 正気に戻ったアンドロモンは、黒い歯車に操られるまでのいきさつをなのは達に語った。
 
 
 
 「黒い歯車!?」
 「またなんか…」
 
 なのはとはやてが、“黒い歯車”という言葉に反応して言った。
 
 「助ケテクレタノニ、本当ニ申シ訳ナイコトヲシタ…」
 「いいよ。故障だったんだから、気にしないで」
 
 謝るアンドロモンを、フェイトが宥めた。
 
 
 「君達ノ疑問ニ答エテアゲタイガ、私モ答エヲ知ラナイ。ダガ、ココカラ出ルタメノ、アドバイスハ出来ル」
 
 そう言いながら、アンドロモンは、スッと奥の扉を指し示した。
 
 
 「地下水路ヲ行クトイイ」
 「ありがとう、アンドロモン」
 「君達ノ幸運ヲ祈ル…無事、元ノ世界ヘ帰レルヨウ。ソシテ、」
 
 アンドロモンは、はやてと、彼女の傍らに佇む闇の書を見つめて言った。
 
 
 
 
 「永キ闇ニ、穏ヤカナ終焉ガアランコトヲ――」 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「よい、しょっと!」
 「よし、これで全員出てきたね!」
 
 アンドロモンと別れたなのは達一行は、アンドロモンの助言通りに、地下水路へ入った。
 
 
 「なんか、じめじめしてて気持ち悪いところだね…」
 「にゃはは…そうだね」
 
 日が当らず、湿度の高い地下水路の空間は、決して居心地のいいものではない。フェイトと同じような気持ちがなのはにもあったため、なのはは苦笑いしながら相槌を打った。
 
 
 「ねぇ、すずかさん。さっき、パソコンでテントモン進化させたんでしょ?」
 「そうなるね」
 
 すずかの隣を歩いていたアリシアが、ふと思い出したようにすずかに尋ねた。
 
 「私のパタモンも進化させられるの?」
 「…できるかもしれないね」
 「本当!?」
 「ちょっとやってみようか」
 
 すずかが、テントモンの進化のきっかけになったデータをパソコンに打ち込む。
 だが、パソコンは、途中で電源が落ちてしまったかのように、画面が暗転した。
 
 「あれ?…おかしいな」
 「なんです?壊れましたん?」
 「じゃないと思うんだけど…」
 
 テントモンの質問に答えながら、すずかがカタカタとキーボードを叩くが、一向に反応が無い。
 まるでひとまず役目を終えたかのように、沈黙したままであった。
 
 
 「そういう時は、やっぱり右斜め65度で叩くに限るよ!」
 「あれ!?さっき言っとった角度と違うでなのはちゃん!」
 「そうだよ、45度だよなのは~」
 〈いえ、50度です、アグモン〉
 
 なのはの言動に、アグモン達が反応する。
 
 
 
 「アンタ達の能天気は、叩いたって治らないわよ!」
 
 
 
 アリサが、バッサリと言い切り、皆が笑った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ――そこを離れると、すずかのパソコンが使えなくなった――
 
 それが、この世界の謎を解き明かす鍵であったとは、
 まだ誰も、気付いてはいなかった。