薄暗い地下水路を行く、子供達。
 何もしていないと、忍び寄る影に引きずり込まれそうで。
 なんだかじっとしていられないから、あてもなく歩き続けた。
 
 
 
 
 
 
  第6話 「パルモン怒りの進化!」
 
 
 
 
 
 
 一行は、子供達とデジモン達に分かれ、水路を間に挟んで両脇の道を進んでいた。
 子供達の明るい歌声が、重なり合って暗い地下水路に響く。
 
 「遠ーい、ふるーさと思い出すー……はい、デジモンチーム、“思い出すー”の“す”!」
 「すっぱいな~、すっぱいな~は成功の~もとじゃあないない!」
 
 あるフレーズを歌い終えた子供達。その直後のなのはの合図に応じて、今度はデジモン達が不思議な歌詞の歌を歌った。
 なのは達は、子供チームとデジモンチームに分かれて、歌詞のしりとりをしているようだった。
 
 「はいこどもチーム“ないないな~い”の“い”~!」
 「“い”!?」
 「“い”かぁ…何あったかな」
 
 
 デジモンチームからまわってきた“い”で始まる歌詞が思いつかず、なのは達は皆揃って苦笑いしながら頭の記憶を探った。
 
 
 「いー…いけないぃ、ひとぉ…」
 「…何だ、それは」
 「パパがよくカラオケしてた演歌よ」
 「そんな歌知らなーい」
 
 苦し紛れに歌い出したアリサに、演歌を知らないクロノが冷静に突っ込む。アリシアも、さすがに演歌は聞いたことが無いようだった。
 
 
 「今はー、何もー」
 
 アリサ達のやり取りを聞いてクスクスと笑っていたすずかは、ふと、“い”で始まる歌詞を思い出し、笑顔でフレーズを口ずさんだ。
 
 
 「あぁ!それなら知っとるよ!」
 「私も!」
 
 はやてとなのはが一番にその歌に反応する。その歌を思い出した他の子供達も歌い出した。再び、地下水路に7人の歌声が重なって響き合う。
 
 
 
 「今はー、何もー……わあっ!!」
 
 
 
 すると、歌っている最中に突然はやてが悲鳴を上げた。
 
 
 
 「大丈夫!?」
 「どうしたの?はやて」
 
 なのはとフェイトがはやてを心配して声をかけた。
 はやては「びっくりしたわぁ…」と言いながら、一度深呼吸して心を落ち着かせた。
 
 
 「水が、落ちてきたんよ…」
 「それはびっくりするよね…」
 「あ、ちょっと汚れちゃってる」
 
 はやての答えを聞いて、なのはが驚いたはやてに同情する。すずかは水滴が落ちてきて、はやての服に小さな汚れができたことを指摘した。
 
 
 「あー…洗濯したいなぁ」
 
 はやてがため息混じりに呟いた。
 少し疲れた表情のはやての横顔を見て、なのはも、自分が今やりたいことを考えた。
 
 
 
 「私だって、風呂に入ってのんびりと…」
 
 なのはは、はやてと似たような理由で、風呂にゆっくりつかりたいと思ったようだった。
 
 
 
 「私は…」
 
 なのはの発言を聞いて、その場にしゃがみ込むアリシア。アリシアはそのまま、両手で何かを握っているような仕草をした。親指をピコピコと動かしている。
 アリシアはテレビゲームが恋しくなっていた。
 
 
 
 「アリシア、こんな時にテレビゲームは無いんじゃ…ははっ」
 
 アリシアのやりたいことがわかったフェイトは、小さく笑った。
 だが、少し間を置くと、フェイトの顔から笑みが消える。
 
 
 
 「…でも私もアリシアのこと笑えない。今、私のしたいことは、木刀を使った剣の練習…めいっぱいやりたい!」
 
 
 
 剣の練習、とフェイトは言ったが、おそらくは魔法を使うための剣術を磨くものだろうな、と隣で彼女の発言を聞いていたクロノは思った。
 
 
 
 「誰も笑えないさ。僕は仕事…やり残してきた書類整理山ほどしないとな」
 
 
 
 クロノは賑やかな幼馴染を思い出しながら、向こうに残してきた仕事のことを気にかけた。
 こう見えてもクロノ・ハラオウンは、地球では小学6年生であるが、ミッドチルダでは立派な社会人なのである。
 だが、5歳差というクロノ直々のカミングアウトが無ければ彼の細かい事情など微塵も知らなかったアリサは、そんな発言をする小学6年生に苦笑いを向けるばかりだった。
 
 
 「クロノ、5歳違うとはいえ、変わってるわね…アタシは家の犬達とじゃれて遊びたいわ!」
 「アリサさんそれいい!私もアルフと遊ぶ!」
 「アルフ?」
 「あー、私の家にいる犬なんだ」
 
 
 アリサの希望に同意したアリシアの口から突然出てきた聞いたことのない名前を、アリサは聞き返した。フェイトがアリサの疑問に答え、こう続けた。
 
 
 
 「まぁ、本当は狼なんだけどね」
 「えっ」
 
 
 
 フェイトが家で狼を飼っていたという事実に硬直するアリサ。
 
 
 
 「じゃあ私は家の猫さんとたくさん遊びたい!」
 「すずかちゃん猫好きやもんなー」
 
 何度かすずかの家に行ったことがあるはやては、猫屋敷とも呼べそうなすずかの部屋を脳裏で思い出しながら、隣のなのはと顔を見合わせて小さく笑った。
 そして、同時にため息をついた。
 子供達全員の顔に、疲れた表情が浮かぶ。
 
 
 「みんな疲れてるんだ…」
 「かわいそう…」
 
 ガブモンとゴマモンが、そんななのは達を見て呟いた。
 
 
 
 
 するとその時、地下水路の向こうから微かに、声が反響してきた。
 
 
 
 
 「あっ、あの声は…!」
 
 少し首をかしげてテントモンが言う。
 相手の姿かたちは暗くて見えないが、声は止むことが無く、なのは達の鼓膜を小さく震わせ続けていた。。
 
 
 
 「ヌメモン!!」
 「ヌメモン?」
 
 ガブモンが言い当てた声の正体を聞いて、フェイトがその名を聞き返した。
 
 
 「暗くて、ジメジメしたところが好きで、知性も教養もないデジモン!」
 
 
 ヌメモンと呼ばれたデジモンの説明をしたのはゴマモンだった。
 
 ――同じデジモンとして、いささか酷い言われようではあったが。
 
 
 
 「強いの?」
 「弱い」
 「弱いけど汚い!」
  
 すずかの問いに、短く答えるテントモンとパタモン。
 
 
 
 「汚いのー?」
 「デジモン界の嫌われ者って言われてる」
 「嫌われ者…」
  
 
 アリシアがパタモンの言葉を繰り返し、アグモンがさらに説明を付け加えた。アグモンにしては、あまりに直球なその言い様に、思わず言葉を失うクロノ。
 なのは達は、その場に立ち止まって、じっと、暗い地下水路の向こう――声が聴こえてくる方を見つめた。
 
 
 
 
 
 やがて、水路の向こうから声の主達が現れた。
 少しがさつで汚らしい印象を受けなくもない、緑色の体色を持つ小柄なデジモンの集団。
 カタツムリのように、目は、体から少し離れた部分にあるが、大きい眼球だった。
 どの部分がそう思わせているのかはわからない。だが何故か、“醜い”という言葉が似合ってしまうデジモンだ、と子供達は思った。
 
 
 
 
 「やっぱりヌメモンだ!!逃げろぉ!!」
  
 
 
 
 焦りを含んだアグモンの掛け声を合図に、なのは達は全力で走りながら、一斉に来た道を戻り始めた。
 
 
 
 
 「弱いのにどうして逃げなくちゃいけないの!?」
 「今にわかるーーー!!」
 
 
 
 
 追ってくる背後のヌメモンを確認しながら走るなのはが、アグモンに問うた。だがアグモンはただ、聞くよりも見た方が早いとでも言いたげに、若干乱暴な答え方をした。
 そして、アグモンの言動の意味を、なのははすぐに理解することとなる。
 追ってくるヌメモン達が子供達に向かって、どこから取り出したのか、あるものを力いっぱい投げつけてきたのだから。
 
 
 
 
 
 ピンク色の、ちょっととぐろを巻いたそれは――――アレ、なわけで。
 
 
 
 
 
 「なんなのよこれぇーーー!!」
 
 
 
 
 アリサが、ヌメモン達の猛攻から全力で逃げながら、大声で叫んだ。
 ヌメモン達が投げてきたソレは、子供達の目の前で、水路の中に落っこちたり、壁に直撃して形を崩したりした。
 
 
 「うっわぁ…!」
 
 その光景を間近で見て、アリサが心底嫌そうな顔をした。
 
 
 
 「うわあああっ!!」
 「きゃあああっ!!」
 
 
 
 ヌメモン達の下等かつおぞましい猛攻に、ただひたすら逃げるなのは達。
 
 
 
 「へっ!」
 「えいっ」
 「そりゃっ」
 
 
 
 対するヌメモン達は、惜しまずアレを投げ続けていた。
 
 
 
 
 
 
 
 「あっ!こっち!!」
 
 先頭になって逃げていたアリシアが、横道を見つけて自身の足に急ブレーキをかけた。そしてすぐさま方向を転換し、その横穴に入っていった。他の皆もアリシアに続く。
 その横道は、上り坂になっていた。
 ヌメモン達も、なのは達を追ってその坂道を這い上がってくる。
 
 「はっ、はっ、はっ…」
 
 走り続けたその道の先――なのは達の向かう先に、次第に光が差し込んできた。
 そのまま外に出たなのは達を迎えたのは、空高く昇った太陽。
 久々の自然光に、一行は思わず見入ってしまった。
 
 
 
 「げ、ひゃあああっ」
 「え!?」
 
 
 
 背後で聴こえた突然の悲鳴に、なのはとアグモンが驚きながら振り返った。
 
 
 
 「ひぃいいいっ」
 「ひゃあああっ」
 
 
 
 ヌメモン達は太陽の存在に気付くと、穴から出ることなく、情けない声を上げながら来た道を戻っていった。
 ヌメモンの突然の変化に戸惑う子供達であったが、
 
 
 「ヌメモン達は太陽の光が苦手なんだ」
 「………はぁ」
 
 
 アグモンの説明を聞いて納得したなのはは、アグモンと顔を見合わせて、ようやく息をついたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 ヌメモン達から逃れ、外に出た子供達は、サバンナに似た地形の草原を歩いていた。
 小川の水面に映る子供達の表情は、皆揃って疲れている。
 
 
 「あっ!」
 
 
 すると、進む先の脇道にあるものを見つけたアリサが声を上げた。
 
 「こんなところに自動販売機が…たくさん…」
 
 アリサの言う通り、少し離れたところに、自動販売機が幾つも、不規則ではあるが置いてあった。
 
 「…アリサ、まさか飲みたいなんて」
 「ちょ、ちょっと調べてくるだけよ!!」
 「あーっ!!」
 「おいアリサッ、多分何も出てこないぞっ!」
 
 パルモンとクロノが止めようとするが、アリサは聞く耳持たず。調べると言い残して、奇妙な自動販売機の元へと走って行ってしまった。パルモンが、それを追いかける。
 なのは達小学5年生組は、揃って苦笑いを浮かべた。
 
 「アリサちゃん…」
 「や、あんなこと言っておいて、実はみんなの分の飲み物確保しようとか考えてるのかもしれへん」
 「アリサならそう考えてそうだね…言葉には出さないけど」
 
 
 
 
 
 
 
 はやてやフェイトの読み通り、アリサは今後のための水分の確保を考えていた。
 
 「あ、コーラ!パルモンも飲む?」
 「いらない!」
 「…いえ、デジモン達も飲み物がいるわよね…じゃあ買っていきましょ」
 「…え?アリサ?」
 
 パルモンの断りの返事も聞かず、独断で全員分の飲み物を買って行くことにしたアリサ。
 思わぬ強行突破に、パルモンも驚いてアリサの横顔を見つめてしまった。
 一方のアリサはそんなパルモンの行動を気にも留めず、自動販売機にコインを入れ、自動販売機が起動するのを待った。
 
 
 「…え? …きゃあっ!!」
 
 
 だが、自動販売機は本来の役目を果たすどころか、大きな音を立ててコインの投入口のある面を倒してきた。アリサとパルモンは、慌てて後ろに下がり、その板との衝突を回避した。
 
 
 
 「おねえちゃ~ん!!」
 
 
 
 そして自動販売機の中から出てきたのは、あの忌々しい緑色の生き物。
 
 
 
 「なっ!?」
 「ヌメモン!?」
 
 アリサとパルモンが背後を振り返り、ヌメモンを視野に入れて言った。
 
 
 
 「ヌヘヘ…オイラとでぇとしない?」
 
 
 
 自動販売機の中から出てきたヌメモンの第一声が、それだった。
 ヌメモンの発言を聞いたパルモンが、冷静に、アリサに問う。
 
 
 「アリサのこと、ナンパしてるわよ。どうする?」
 「はぁっ!?どうもしないわよっ!なんでアタシがこんな奴とデートしなきゃいけないのよっ!!」
 
 
 はじめから選択の余地はないとでも言いたげに、アリサは怒りのままに全力で、ヌメモンの勧誘を断った。
 
 
 「怒らせちゃだめよ」
 「平気よ!だって太陽の光の下…じゃ……あっ」
 
 
 パルモンのやんわりとした制止に対し、上空をピッと指差しながら多少早口で言葉を重ねるアリサ。だが、アリサは最後まで言い終えることが出来なかった。
 なぜなら、雲が太陽を覆い隠してしまったからである。
 太陽の光は、今後しばらく地上には注がれない。
 
 
 
 
 「…嘘」
 
 
 
 
 空を見上げたまま、アリサは呆然とした声で呟いた。
 
 
 
 
 「こんな奴とはなんだ!もう怒ったぞーいっ!!」
 
 ヌメモンはそう言って、攻撃を仕掛けてきた。無論、投げられるのは先程と同様――アレである。
 
 
 
 「きゃあああっ!!」
 「またなの~っ!?」
 
 
 
 アリサとパルモンは、そう叫びながら来た道を戻り、皆の元へ向かった。
 一方で、あちこちの自動販売機からヌメモン達が続々と出てきて、アリサとパルモンを追いかけてきた。
 その結果、アリサ達がヌメモンの集団を連れてきてしまったような状況になった。
 
 
 
 「あー…あんなにたくさん…」
 
 苦笑いしているはやてが、少し間延びした、疲れたような声で呟いた。
 
 
 「アリサちゃん、これは…」
 「…とりあえず、逃げよっか」
 
 なのはも口をポカンと開けたまま、呟く。フェイトは、そんななのはに同情しながらも、とりあえず早急に逃げることを提案した。危険は、すぐ目の前に迫ってきていたのだから。
 
 
 
 「うわあああっ!!」
 「きゃあああっ!?」
 
 
 
 子供達とそのパートナーは、再び、ヌメモン達と――ヌメモン達が投げてくるアレと、追いかけっこをする羽目になった。
 
 
 
 「別れて逃げよう!!」
 「うん!!」
 
 
 フェイトが走りながら、散開することを提案した。なのははその提案に頷き、ここで一旦皆と別れる決意をした。
 子供達は、自身のパートナーを連れて、散り散りになっていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「はっ、はっ、はっ…」
 
 皆と別れた後、アリサとパルモンは、木々の生い茂った林を駆けていた。
 背後には、アリサ達を追い続けてきたヌメモンが三匹。
 
 「きゃあっ!」
 
 三匹のヌメモンのうちの一匹が、アリサ達に向かってアレを投げてきた。
 アリサとパルモンはソレを避け、木の陰へと隠れた。
 ヌメモン達の攻撃が落ち着いたところで、パルモンが、ヌメモン達に木の陰からバッと姿を晒す。
 対するヌメモン達は、突然出てきたパルモンを見て、ポカンとしていた。
 
 
 「ふんっ! ポイズンアイビー!!」
 
 
 パルモンが反撃しようと構えた、その時。
 
 
 「ひええええっ!!」
 
 
 まだ攻撃していないのに、ヌメモン達は一斉に逃げ出した。
 
 
 「あれ?」
 「パルモン、やるじゃない!」
 
 パルモンが疑問の声を上げた。ようやく木の陰から顔を出したアリサがパルモンを褒めるが、パルモンは納得のいかない表情で首をかしげた。
 
 
 「おかしいな、まだ何もしてないのに…」
 
 
 すると今度は、ズシンという音とともに、二人の背後から何かが近付いてきた。
 
 
 「きゃっ!」
 
 
 その足音の衝撃で思わずよろけてしまったアリサが、体勢を立て直しながら後ろを振り返ると―――
 
 
 
 
 「わー…大きいわね」
 「モンザエモン!?」
 
 
 
 
 ――――黄色くて巨大な、紅い目をした熊が、アリサとパルモンを見下ろしていた。
 
 
 
 「おもちゃの町へようこそ」
 
 
 
 黄色い熊の姿をしたデジモン――モンザエモンは、薄ら笑いを浮かべながら言った。
 
 
 
 
 
 「なにこれ、デジモンなの…?」
 「うん。見かけによらず、とっても強いデジモンなの」
 
 
 見たことのないデジモンを目の前にして、アリサがパルモンに尋ねた。
 パルモンが言うように、モンザエモンは、外見は熊のぬいぐるみのようなのだが、実はアンドロモンと同じように完全体に分類されるデジモンである。
 先程のヌメモン達は、おそらくパルモンではなく、パルモンの背後にいたモンザエモンに気付いて逃げたのであろう。
 
 
 「おもちゃを愛し、おもちゃに愛される、おもちゃの町の町長!」
 「じゃあ、良いデジモンなのね?」
 「だと思うよ」
 
 パルモンの答えを聞いて、内心ホッと息をつくアリサ。
 
 
 
 「お嬢さん、お待ちしておりました…」
 
 
 
 だが次の瞬間、アリサとパルモンの見解は見事に外れることとなる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「良いデジモンがどうしてアタシ達に攻撃するのよっ!!」
 「わからないーっ!!」
 
 アリサとパルモンは再び林の中を、来た道とは逆に駆けていた。
 理由は実に単純、敵が追いかけてくるからである。
 ただし、先程とは違って、追ってくるのはヌメモンではなく――モンザエモン、なのだが。
 
 
 「ごゆっくりお楽しみください。お会いできて光栄です」
 
 
 丁寧な言葉を言いながら、アリサ達に向かって、目から紅い光線を出してくるモンザエモン。
 のしのしと歩いてくるので近付いてくる速度は緩いが、代わりにヌメモンとは比べ物にならない迫力がある。
 事実、モンザエモンの繰り出した光線は地面に当たると大きな音を立てて爆発しているので、身の危険を感じるには十分すぎるほどだった。
 
 
 「モンザエモンの、何かが変わっちゃったのねー!!」
 「変わる前に会いたかった!!」
 
 
 走りながら、アリサとパルモンがそんなやりとりをする。
 アリサは頭の中で、あの黒い歯車のことを思い出していた。
 林を抜け、アリサ達は再びサバンナのような草むらへと戻って来た。
 
 
 「おねえちゃん!こっちこっち~!!」
 
 
 すると、先程の残党か、一匹のヌメモンが、草原の陰からひょっこりと顔を出してアリサ達を呼んだ。
 
 
 
 「ヌメモン!?」
 
 
 
 予想していなかったヌメモンの登場に、思わずアリサは驚きの声を上げてしまった。
 ヌメモンはおそらく、ここに隠れろと言っている。
 だが、元々、知らない相手に対して疑い深くなるアリサは、ヌメモンを信じるべきか葛藤した。
 
 
 「…隠れなきゃ!!」
 
 
 だが、パルモンの発言にも同意していたアリサは、バッと背後を振り返り、ゆっくりと近づいてくるモンザエモンを見やると、覚悟を決めて腹を括った。
 
 
 「…しょうがないわねっ!」
 
 
 アリサはそう言って、パルモンとともに、ヌメモンがいた――草むらの間にたまたまできていた割れ目に隠れた。
 
 
 「ご一緒に遊びましょう!」
 
 
 モンザエモンが、ズン、ズンと大きな足音を立てて、アリサ達のいる地面の割れ目を跨ぐ。
 アリサとパルモンは、至近距離に来た危険に、ただ息を殺すしかなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 そしてモンザエモンは、真下のアリサ達には気付かず、そのまま、先程追いかけっこをした林の向こうへと進んでいった。
 モンザエモンの重苦しい足音が、次第に遠のいていく。
 
 「行ったわね…」
 「おもちゃの町で、何かあったのかしら…?」
 
 アリサとパルモンが、同時にひょっこりと顔を出した。
 
 
 ――おもちゃの町の町長に異変が起こったならば、町にも何か異変が起こっているはず。
 
 
 アリサ達はそう考えていた。
 
 
 「おねえちゃん、オレとおもちゃのまちででぇとしない~?」
 「しない!!」
 「ぐへっ」
 
 
 そして、アリサの隣からひょっこりと顔を出してナンパしてきたヌメモンを、アリサは一言でバッサリと拒絶した。
 
 
 
 「パルモン、行こっ!」
 
 
 
 そう言ってアリサは立ち上がると、林へと去っていくモンザエモンを追いかけ始めた。
 モンザエモンのことが放っておけないアリサは、モンザエモンが自分の町に戻ると予想し、自身の目で町の様子を確かめようと思い至ったのだ。
 
 
 
 ―――皆と合流する前にちょっと寄り道することになるけれど、たまにはいいはずよね。
 
 ―――もしかしたら、誰かもそのおもちゃの町に逃げたかもしれないし。
 
 
 
 同時に、自分自身に対してそう言い訳をしながら。
 
 
 「あ、待って!」
 
 パルモンもパートナーの後を追った。
 自身もモンザエモンのことが気になるので、アリサを止めはしなかった。
 
 
 
 「はっきりもの言うおねえちゃんだなぁ…」
 
 
 
 置いてかれ、残されたヌメモンは一匹、アリサ達の消えた林の向こうを眺めたままポツリと呟いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「あっ!」
 「あれがおもちゃの町よ!」
 
 目的地に着き、アリサとパルモンは、足を止めて目の前の建物を見上げた。
 視線の先にあるのは、おとぎ話に出てくるような、幾つも連なった城の数々。
 子供達にしてみれば、夢のような光景が広がっていた。
 
 
 「素敵ね…まるで遊園地!!」
 
 
 アリサが、感嘆の声を上げて言った。
 モンザエモンのことも脳裏にはあったが、目の前に広がる期待に胸を躍らせながら、アリサとパルモンは、おもちゃの町へと足を踏み入れた。