熊の風船が、いくつも空へと飛んでいく。
 明るい雰囲気の曲が、町中に流れている。
 アリサが表現したように、おもちゃの町は、まるで遊園地だった。
 
 「誰もいないみたいね…」
 
 辺りをキョロキョロしながら、アリサが呟いた。
 
 
 
 
 すると、近くで車のクラクションのような音がした。
 そして、誰かが走ってくる足音も聞こえてくる。
 
 「誰か来る…?」
 
 パルモンが言い、二人は物音がしてきた方を見た。
 
 
 「楽しいな、楽しいな…」
 「な、なのは!?」
 
 
 赤いおもちゃの車に追われるようにして走ってきたのは、他でもないなのはだった。
 アリサは、予想外な友人の登場に、驚きのあまり声をあげてしまった。
 
 
 「おもちゃの町は、楽しいな…」
 
 なのはが、疲れた笑顔で走り去っていく。
 どのぐらい走っていたのかはアリサにはわからないが、なのはは元々、運動神経は良い方ではない。
 故に、結構な時間は走っているのだろうな、とアリサは思った。
 
 「全然楽しそうには見えないけどね…」
 
 なのはは走るのも苦手だったし、とアリサは思い出しながらポツリと呟く。
 
 
 「とっても、とっても、おもろいなー…」
 
 別の方向から、今度ははやてが走ってきた。
 はやての背後には、猿のおもちゃがついてきている。
 
 「どこが面白いの…?」
 
 パルモンが首をかしげた。
 
 
 「愉快だな、愉快だな…こんな愉快なことはない」
 
 すずかは、たくさんのおもちゃの兵隊に追われるような形で走っていた。
 
 「すずかまで…ちっとも愉快そうじゃないわよ…?」
 「うん……」
 
 アリサの発言に、パルモンが頷く。
 
 
 「とても…嬉しいな…」
 「最高だ、文句なしの、最高…」
 
 同じように、フェイトは汽車のおもちゃに、クロノは鳥のおもちゃに。
 
 「ばんざーい、ばんざーい…」
 
 アリシアは、ヘリコプターのおもちゃに追われていた。
 
 
 
 「なんだか、感情が無くなっちゃったみたいね…どうなってるのかしら」
 
 
 アリサが、変わり果てた友人達を見て、首をかしげた。
 
 
 「変だな、アグモン達がついてたはずなんだけど…」
 
 デジモン達が見当たらないことも不思議で、パルモンは疑問を口にした。
 だが、立ち止まっていては何も始まらないので、アリサとパルモンは再び町の捜索を再開した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「くっ、このっ…!」
 「ふぬっ…!」
 
 アリサとパルモンが町の通路を歩いていると、ある建物の中から声が聞こえてきた。
 何か、力を入れるような、声だった。
 アリサとパルモンが何事かと思い、窓から部屋の中を覗いてみると、部屋の中心にあった大きな宝箱が音を立ててガタガタと動いている。
 声は、その中から発せられているようだった。
 アリサとパルモンは、顔を見合わせて、部屋の中に入ることを決意した。
 その声に、聞き覚えがあったからである。
 
 「誰かいるの!?」
 
 扉を開けて部屋に入り、パルモンが大声で確認した。
 
 
 「パルモン!」
 
 
 中から聞こえてきたのは、やはり、聞き覚えのある声。
 聞き間違いではなかったと、アリサは内心でホッとした。
 
 「その声…アグモンなのね!」
 「ピヨモン、テントモン、ガブモン、ゴマモン、パタモンは!?」
 
 アリサとパルモンが、確認するように言った。
 
 「みんないる!」
 「一体どうしたのよ!?」
 「モンザエモンにやられた!」
 
 何があったのか、アリサが問うたのに対し、アグモンの答えは、モンザエモンの仕業ということだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 それは、ヌメモン達に追われ、別れて逃げた後の出来事だった。
 なのはとアグモンは、広い草原を走っていた。
 
 「い、いつまでついてくるのーっ!?」
 「わからないーっ!!」
 
 なのはとアグモンが大声で会話のやりとりをしながら、全力全開で駆ける。
 すると、二人の前に突然、モンザエモンが現れた。
 なのは達を追ってきていたヌメモン達は、モンザエモンを認識した瞬間、来た道を戻り始めた。
 そんなヌメモン達を、モンザエモンの目から発射される赤い光線が、追撃する。
 邪魔者であったヌメモン達がいなくなったところで、モンザエモンは、ぐるっと振り向き、なのはとアグモンを威圧的な目で見下ろした。
 
 
 「おもちゃの町へようこそ」
 
 
 そう言うモンザエモンの目が、不気味に、赤く輝いた。
 その仕草だけで、次の攻撃が自分達に向けられているという事実と、このデジモンは危険だという危機的直感を、なのはに察知させるには充分だった。
 
 
 「…に、逃げるよっ!」
 
 
 なのはが切羽詰まった声で言い、なのはとアグモンは再び走り出した。
 先程までなのは達がいたところには、モンザエモンの赤い光線が降り注いだ。そして、その一帯が爆発に巻き込まれる。
 あのデジモンは強い。それだけは、嫌になるほど直に伝わってきた。
 モンザエモンはズンズンと歩いて近付いてくる。
 少し距離を開けたところで、アグモンがモンザエモンに攻撃を仕掛けた。
 
 
 
 「ベビーフレイム!!」
 
 
 
 だが、モンザエモンの体には傷一つ付かなかった。
 
 
 
 「だめだ、ベビーフレイムが効かない…!」
 「えぇっ!?」
 
 
 なのはが、驚きの声を上げながら、再び走り出す。アグモンも、ちらちらとモンザエモンを見ながら、なのはと一緒に逃げようと駆け出した。
 だが、モンザエモンはそれを許そうとはしなかった。
 
 
 
 「ラブリーアタック!!」
 
 
 
 モンザエモンは、大きくジャンプし、たくさんの青いハートを繰り出した。
 
 
 「きゃあっ!!」
 「うわあっ!!」
 
 
 青いハートはフワフワと浮かびながら、なのはとアグモンを中に取り込んだ。
 体中から力が抜けるような感覚。
 何も考えられず、思考が停止していく感覚。
 気分が沈んでいくような気持ちを感じながら、なのはとアグモンは意識を失った―――
 
 
 
 
 
 
 「気が付いたら…」
 「ここに……」
 
 アグモンの言葉を、ピヨモンが引き継いだ。
 他のデジモン達も、同じ手口でモンザエモンに捕まったのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 「はっ、はっ……どこの着ぐるみやねん、あれっ!」
 
 走りながらツッコミを入れるのは、はやて。
 そのすぐ後ろには、黄色い熊のようなデジモン。
 
 
 「お待ちしておりました」
 
 
 他ならぬ、モンザエモンだった。
 
 
 
 「マジカルファイヤー!!」
 
 
 ピヨモンが、はやてを守ろうと、攻撃を繰り出す。
 だが、やはり完全体であるモンザエモンには全く効かなかった。
 
 
 (また胸が痛くなっとるし……まさか、黒い歯車!?)
 
 
 はやてがそう考えた、その時。
 
 
 「ラブリーアタック!!」
 
 
 なのはの時と同じように、モンザエモンが繰り出した青いハートが、はやてとピヨモンを取り込んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 「ごゆっくりお楽しみください」
 
 ヌメモン達をまいた後に合流したフェイト、すずか、クロノ、アリシアとそのパートナー達。
 その彼女らの前に現れたのは、やはり、モンザエモンであった。
 
 
 「プチサンダー!!」
 「プチファイヤー!!」
 「エアーショット!!」
 
 
 陸地で技を繰り出せないゴマモン以外の三匹のデジモンが、一斉に攻撃を仕掛けたが、全く効き目が無かった。
 
 
 
 「ラブリーアタック!!」
 
 
 
 そして、モンザエモンの技に為す術もなく、フェイト達もモンザエモンに捕まった。
 
 
 
 「デジモンはおもちゃ箱。子供達は感情を消して、おもちゃのおもちゃになりましょう…!」
 
 
 
 モンザエモンの顔が、歪んだ笑みに染まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「おもちゃの、おもちゃ…!?」
 
 なのは達がああなった理由を聞いたアリサは、先程見たなのは達を思い出す。
 なのは達を追いかけるようにして後ろにピッタリとついてきていたのは、おもちゃの数々だった。
 
 「あれは、おもちゃに遊ばれてたのね…」
 「モンザエモンの身に、何が起きたの!?」
 「わからない…」
 
 アリサがしっかりと状況を把握したところで、パルモンが中のデジモン達に問う。
 だが、モンザエモンに何があったのかは、アグモン達にもわからないようだった。
 
 「ねぇ、この箱なんとか出られないの?」
 「壊そうとしたけどだめだった!」
 「オレたちのことよりフェイト達を助けることが先だ!」
 
 今度はアリサがアグモン達に問うが、アグモン達が自力で脱出することは難しいらしかった。
 ガブモンが、早くフェイト達の救出に向かうように急かす。
 
 
 「どうやって!?」
 「モンザエモンを倒すしかないわ!」
 
 パルモンの問いに答えたピヨモンは、元凶を叩く他に術は無いと言った。
 
 「えぇっ!?」
 「無理よ!」
 「パルモン、アリサ!頼りはお前達しかいない!」
 
 それはつまり、アグモン達ですら敵わなかった相手に二人だけで立ち向かうことを意味する。
 アリサとパルモンは思わず大声をあげてしまったが、アグモンの真剣な声を聞いて、顔を見合わせた。
 
 「…どうしよう」
 「あたしに言われても……でも、避けては通れない道ね。なんとかしなきゃ!」
 
 自信の無さそうなパルモンを元気づけるように、アリサは決意の籠った表情で言った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 いつまでもアグモン達のところにいるわけにはいかないので、アリサとパルモンは再度、町を探索していた。
 
 
 「モンザエモンのラブリーアタックは、幸せの詰まったハートを飛ばす、ハッピーな攻撃のはずなんだけどなぁ…」
 
 
 パルモンがそう呟いていると、アリシアとすれ違った。
 相変わらず、アリシアはヘリコプターのおもちゃに追われていた。
 
 「ははは…ばんざーい、ばんざーい……ははっ」
 
 力なく笑っているアリシアは、疲れているようにも見えた。
 
 
 「…あれのどこがハッピーなのよ」
 
 
 アリサがボソッとこぼした。
 すると今度は、ガシャンガシャンとシンバルの音がすぐ近くで響いてきた。
 それは、先程、はやての後を追いかけていた猿のおもちゃのようだった。
 アリサが数秒の間、そのおもちゃとにらめっこをするが、シンバルの音は、鳴り止まなかった。
 
 
 「…ちょっと、静かにしなさいっ!」
 
 
 操られた友人達、捕らわれたデジモン達、その元凶であるモンザエモンへの怒り――様々な感情をごちゃ混ぜにしたアリサは、猿のおもちゃの頭をグッと掴み、大きく振りかぶっておもちゃを投げ飛ばした。
 遠方の青空のもとで一度、キラッと光ると、おもちゃは見えなくなった。
 パルモンがポカンとしている前で、アリサは一言「ふんっ」と言っただけだった。
 
 
 
 その行為を察したのかは定かではないが、突然、建物の向こうから、彼は現れた。
 
 
 
 「おもちゃの町へようこそ」
 「きゃっ、出たわね!!」
 「モンザエモン!!」
 
 両手に熊の風船を持ったモンザエモンと少し距離をあけて対峙するアリサとパルモン。
 
 
 「お嬢さん、お待ちしておりました」
 「なによ!何があったのか知らないけど、あたしの友達の感情取ることないでしょうっ!!」
 
 
 我慢できなくなったアリサが、自身の怒りをモンザエモンにぶつける。
 モンザエモンは不敵に微笑み、目を紅く輝かせた。
 
 
 「返しなさいよ!!……ってちょっ!」
 
 
 モンザエモンが、両手の風船を手放した。
 風船は、空高く浮かんでいく。
 その地上で、大きな爆発が起きた。
 
 
 「冗談じゃないわよ!なんであたしが熊のぬいぐるみに追いかけられなきゃいけないの!?」
 「知らないーっ!!」
 
 
 おもちゃの町の街道を全力で走りながら、アリサが誰にもぶつけられない文句を吐露する。
 
 
 「ごゆっくりお楽しみください!!」
 
 
 モンザエモンはズンズンと歩きながら、目からビームを繰り出し続けた。
 アリサ達が弱ったところで、捕まえる魂胆なのだろう。
 すると、爆発によって生じた煙幕の中から、意外なデジモン達が飛びだしてきた。
 
 
 
 「おねえちゃーん!助けに来たでーっ!!」
 
 
 
 緑の体色を持つそのデジモン達は、先程まで、アリサ達の敵だったデジモン達。
 だが今は、モンザエモンに向かって一斉にアレを投げつけている。
 
 「ぬぅっ……!」
 
 モンザエモンの額にアレがぶつけられた。
 余計な邪魔者が増えた事と、自身に投げつけられたアレに対する屈辱に、モンザエモンは思わず悔しそうな、怒りのこもった唸り声を上げた。
 
 
 「ヌメモン!?」
 「ヌメモン、なんで…!?」
 
 
 アリサとパルモンに味方したのは、ヌメモン。
 予想外なデジモンの登場に、二人は驚くばかりであった。
 ヌメモン達はモンザエモンに絶えずアレを投げつけるが、モンザエモンの蹴り一つであしらわれる。
 ヌメモン達は、それほどまでに弱い。
 だが、何度吹き飛ばされても、その度に立ちあがって、モンザエモンに立ち向かっていった。
 
 
 「ヌメモンがあたしのために、戦ってくれてる…!?」
 
 
 アリサの目の前で、ヌメモン達とモンザエモンの戦いが繰り広げられる。
 
 
 「うんち投げるしか、取り柄がないのに…!」
 
 
 一方的である上に、下品であるのだが、それでも目を離すことができない戦いだった。
 
 
 「……ふんっ!」
 「ぐわああっ!!」
 
 
 モンザエモンのパンチ一つで何匹ものヌメモン達が倒されていく。
 パルモンは暫くその戦いを見ているだけだったのだが、自身がアリサを守るための戦いをしていないことに悔しさを覚えたのか、キッとモンザエモンを睨みつけ、前へ飛び出していった。
 
 
 「…アタシだって!!」
 「あっ、パルモン!危ないわよ!」
 
 
 モンザエモンの前に立ちはだかり、パルモンは先手必勝と言わんばかりに攻撃を仕掛けた。
 
 
 
 「ポイズンアイビー!!」
 
 
 
 パルモンの手から伸びたつたが、モンザエモンの右手を絡めて動きを抑える。
 だが、完全体であるモンザエモンとは力量の差が大きすぎた。
 
 
 「ぬぅ……らあっ!!」
 「きゃあっ!!」
 「パルモン!大丈夫!?」
 
 
 モンザエモンは無理矢理、右腕に絡まったつたを振り切ったのである。
 パルモンは、その勢いに巻き込まれ、パルモンの後方にいたアリサの元まで吹き飛ばされた。
 アリサが、パルモンを抱き起こしながらパルモンに声をかける。
 
 「ポイズンアイビーが、効かない…!」
 
 パルモンが、モンザエモンを睨みつけながら、悔しそうに呟いた。
 アリサも、パルモンと同様に、キッとモンザエモンを睨みつける。
 
 
 
 「ラブリーアタック!!」
 
 
 
 パルモンが大した相手ではないと悟って、好機だと考えたのか、モンザエモンは青いハートを繰り出した。
 なのは達を捕まえたあの技が、アリサとパルモンに迫る。
 
 
 「アリサ、逃げて!!」
 
 
 すると、ヌメモン達が何段にも重なり、一枚の大きな壁のような形になって、二人の前に立った。
 青いハートの数々が、ズシンと大きな音を立てて、ヌメモン達の壁に衝突する。
 
 
 
 「ヌメモン!?」
 
 
 
 ヌメモン達は、次々に青いハートに取り込まれていったが、アリサ達の前から逃げ出すことはなかった。
 アリサを、本気で守ろうとしているように。
 
 
 「汚くて根性もないヌメモンたちが、アリサを必死に守ってる…」
 
 
 若干酷い言い方であるが、パルモンは、自分がヌメモン達に遅れを取ったことを認識していた。
 そして、そんな自分を恥じていた。
 
 
 
 アリサを守るのは、私の役目であるのに。
 
 
 
 
 (アタシだって!!)
 
 
 
 
 
 
 アリサを守るのは、アタシの役目。
 他の誰にも、この役目は渡さない。
 
 
 
 
 
 アリサを悲しませる奴は、誰であろうと許さない!!
 
 
 
 
 
 
 その時、アリサが持っていた謎の機械が、輝いた。
 それは、パルモンの、自身への、そして敵への怒りが導いた、進化の光。
 
 
 
 
 パルモンの体が、眩い進化の光に包まれる。
 
 
 
 
 
 「パルモン進化! トゲモン!!」
 
 
 
 
 
 光が収まった後、そこにいたのは。
 両手に赤いグローブをはめた、二本足で立つサボテンのようなデジモンだった。
 モンザエモンと同じぐらいあるその大きさに、アリサは言葉を失っていた。
 アリサは呆然と、トゲモンを見上げている。
 
 
 
 「いくよぉーっ!!」
 
 
 
 トゲモンがそう宣言しながら、モンザエモンに向かって歩いていく。
 かたや一匹、ふん、ふんと怒りながらズシンズシンと。
 そしてもう一匹は、ぬぅ、と低く唸りながら、のしのしと。
 
 
 「うああああっ!!」
 「ぬおっ!」
 
 
 戦いのゴングは、トゲモンの右ストレートを始めとして鳴り響いた。
 最初の一撃をまともに食らったモンザエモンは、お返しと言わんばかりに、トゲモンに右ストレートを繰り出した。
 両者が殴り合う度、ポコポコとパンチの音が辺りに響く。
 
 
 「んぬううぅっ!!」
 「うあっ!」
 
 
 トゲモンが、モンザエモンの腹部に一撃。
 モンザエモンが、トゲモンの左頬に一撃。
 モンザエモンは、目から赤い光線を出そうとしたが、トゲモンの仕掛けたアッパーによって、攻撃は見事に外れた。
 
 
 
 「チクチクバンバン!!」
 
 
 
 連続でパンチを出し続けたトゲモンが、モンザエモンの一瞬の隙を逃さず、必殺技を繰り出した。
 体を大きく反らし、自身の体中に生えた無数の棘を放射する。
 
 
 「ぬおおおおっ!!」
 
 
 モンザエモンの体に、無数の棘が容赦なく突き刺さった。
 
 
 「ぐおあっ!」
 
 
 すると、モンザエモンの背中にあったチャックがひとりでに開き、中から黒い歯車が飛びだした。
 モンザエモンは、その巨体を、ドサリと倒した。
 トゲモンが、モンザエモンをKOした瞬間であった。
 
 「………はぁ」
 
 
 モンザエモンとの激しい一戦を終えたトゲモンは、光に包まれて、パルモンへと戻った。
 パルモンは、小さくため息をつきながら、その場にへたりと座り込んだ。
 アリサがその後ろから、笑顔で駆け寄ってきた。
 
 
 「よくやったわ、パルモン!素敵!」
 「く、苦しい…」
 
 
 自身のピンチを救ってくれたパルモンを、ギュッと抱きしめるアリサ。
 パルモンは首を絞められ、蛙の潰れたような声をあげたのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「おもちゃは遊びに飽きられると、あっさり壊され、ホイホイと捨てられてしまう…それが許せなかったのです」
 
 
 オレンジ色の夕日の下、正気に戻れたなのは達は、同じく正気に戻ったモンザエモンの話を聞いていた。
 
 
 「だから、おもちゃの町の町長のワシは、おもちゃの新しい地位向上を目指して…」
 「おもちゃの地位向上、ねぇ…」
 「ちいこうじょう、ってなぁに?」
 「おもちゃを、偉くしようとしたんじゃないか?……多分」
 
 
 モンザエモンの話を聞きながら、アリサがモンザエモンの言葉を繰り返した。
 アリシアにはまだ難しい言葉だったようで、理解が追いついていないようだったが、年長者であるクロノがフォローを入れていた。
 
 
 「その通りです。おもちゃが遊ばれてちゃいけない…おもちゃが遊ばなくちゃいけない、と」
 「それで私たちがおもちゃに遊ばれてたんだ…にゃはは」
 「すみません、思い上がってたんです」
 
 なのは達が、感情を消された時の自分達の行動を思い出して、苦笑いする。
 するとその時、ピクリと、はやてが何かに反応して、背後を振り返った。
 
 
 (ん?この感じ…)
 
 
 胸によぎったのは痛みではなかった。ただ、一瞬の違和感を、はやては感じ取った。
 
 
 「黒い歯車!」
 「モンザエモンが思い上がったのは、歯車が原因だったのかな…?」
 
 黒い歯車は、粉々に砕け、そして霧散していった。
 結局、黒い歯車が何なのかは、わからないままであった。
 
 
 
 
 
 「まぁ、モンザエモンのおもちゃを愛する気持ちは、わからなくはないわね…」
 「ええ!」
 「もうちょっと素直になってもええんやないの、アリサちゃん」
 「……はやて、ちょっとこっちに来なさい」
 
 アリサの、少し照れくさそうな発言に同意するパルモンと、そんなアリサをからかうはやて。
 
 
 「パルモン、ワシの思い上がった心を正気に戻してくれてありがとう。お礼に、ハッピーにしてあげましょう」
 
 モンザエモンがそう言いながら、立ち上がった。
 
 
 
 「これが本当の、ラブリーアタック!!」
 
 
 
 黒い歯車に操られていた時のものとは違う、赤いハートに取り込まれていくなのは達。
 今度は、楽しくて、嬉しくて、幸せな気持ちになる空間だった。
 
 
 「ふふふっ」
 「ははははっ」
 
 
 誰からでもなく、自然と顔に笑みが浮かんだ。
 すると、街道のマンホールから、ヌメモンが顔を出し、アリサをナンパしてきた。
 
 
 「おねえちゃんキスしてー!!」
 「イヤ!」
 「相変わらずハッキリ言うなぁ…」
 
 
 笑顔でバッサリと断ったアリサを見て、皆がどっと笑う。
 紅く染まったおもちゃの町に、子供達の笑い声が響いていった。