「なぁ、あれって……」
 「あぁ、例の……闇の書の主だろ?」
 「そういやあの人、局内(ここ)でなんって?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  彼女達の俗称
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「“歩くロストロギア”?」
 
 フェイトが、はやての言葉を繰り返した。
 
 
 「ま、最初は自称やったんやけどな」
 
 
 ノートにペンを走らせながら、なんともない風にいうのは、夜天の主であるはやて。
 
皮肉(いやみ)をこめて言う人も出てきたから、いつの間にか定着してもうて」
 「にゃはは。なんだか物騒な代名詞だね」
 
同じテーブルで、古典の教科書とにらめっこして唸っていたなのはが顔を上げて言った。
管理局の三人のエース達は、学生の本分を全うするため、放課後の教室で勉強会を開いていたのだった。
 
 
「だけど、なのはも結構物騒な名前ついてたよね」
「あー、あれやね。“管理局の白い悪魔”」
 
 
どこかの機動兵みたいな名前やね、とはやてがニヤニヤしながらなのはを見てきた。
なんだか悔しかったので、なのははボールペンではやてのノートにささっと落書きをした。
わ!よりによってペンか!とはやてが小声で慌てるのを見て、フェイトは苦笑いをこぼす。
 
 
「ヴィータちゃん達には格好いい肩書きがあるのにねぇ」
「鉄槌、烈火、湖、盾……ヴィータの“鉄槌”っていうのは、初対面の人じゃ想像つかないだろうけど」
「そういえば、フェイトちゃんもあるんやろ?代名詞みたいなん」
 
 
ヴィータの外見と年齢のギャップを知らないと到底納得出来ない肩書きだよね、と笑ったのは社会のプリントと闘うフェイト。
そのフェイトの肩書きが気になったはやてが、フェイトに尋ねた。
 
 
「そういえば私もあまり聞かないかも。フェイトちゃんの俗称」
「あるにはあるけど…私のも物騒だよ?」
「どんなん?どんなん?」
「“閃光の死神”」
 
 
 
 
その場に、少しの沈黙が訪れた。
 
 
 
 
「……フェイトちゃん。流石にそれはないよ」
「バリアジャケット変えた方がええんちゃう?ほら、なのはちゃんみたく白を基調にして……」
「わ、私が自分で名乗ってたわけじゃないんだよ!?周りが勝手にそう呼んだんだよ!?」
 
 
フェイトが慌てて捕捉するが、最早なのはとはやての耳には届いていない。
二人は、そろそろ現実逃避をしたかった気持ちもあったためか、勉強そっちのけでノートにフェイトの新装バリアジャケット案を書いて議論を始めていた。
時折、でもやっぱりベースは黒かな、だとか、じゃあ外套を白にすればええんよ、だとか聞こえてくる。フェイトは深くため息をついた。
そして、飲み物を買いに席を外したアリサとすずかの早急な帰還を切実に願った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……なんだか、なのは達がだんだん人間離れしてる気がしないでもないんだけど」
「そういうアリサちゃんにもあるんだよ、代名詞みたいなもの」
「……どんなのよ?」
「“ツンデレの鑑”」
「すずかああああああああああっ!!!」
 
 
 
 
フェイト達の様子をこっそり覗いていて、教室に入るに入れなかったアリサの絶叫を聞いて驚くことになるとは、微塵も思わずに。