「そこの君、ちょっといいかね」
「あ、はい。なんでしょうか?」
「地上本部所属のレジアス・ゲイズ中将だ。部隊長室まで案内してもらいたいのだが」
振り返った先に居たのは。
(え、えぇぇぇっ!?)
地上本部の柱、レジアス・ゲイズであった。
守るための力
「………………」
「………………」
機動六課のオフィスの廊下を歩くのは、二人。
なのはと、レジアスである。
なのはは、陸の人間とは所属が違うため、あまり関わりが無い。
故に、現状のような、レジアスと一緒に部隊長室に向かっている、という状況は、少なくともなのはにとって、前代未聞の出来事だった。
「高町一等空尉」
「は、はいっ!」
「そうかしこまらんでもいい。貴殿の功績は地上本部にまで届いている。それに、案内役は結構だと断ったのはワシだ。まぁ、機動六課が、思いのほか広かったからな…不覚にも迷ってしまっただけだ。だから、それほど緊張するな」
「す、すみません……」
クロノやユーノ、フェイトから、機動六課を運営する上で警戒が必要だと聞いた本人が目の前にいるのだから、なのはは落ち着けるわけがなかった。
はやてとグレアムを犯罪者扱いしているという噂も聞いたことがあるなのはは、親友の夢のためにも、自分が失態を晒すわけにはいかなかった。
だが会話が無いのも気まずい。なのでなのはは、当たり障りの無い話題を提供することにした。
「…中将は、40年も管理局に務めていらっしゃるのですよね?」
「そうだ。守りたかったからな、世界を」
質問の答えにもう一言付け加えてきたレジアスに、目を丸くするなのは。
「貴殿は魔法の力が使えるから、わかるまいが、魔法を使えないワシらにだって、守りたいという思いと、そのための力は存在するのだ」
なのはは、口を挟まずに、レジアスの話を聞いていた。
その後すぐに、部隊長室の前に着いたので、この話はここまでになった。
その日の夕方、レジアスの去った部隊長室にて。
夕日に染められながら、なのはとはやてがお茶をして一息ついていた。
話題は勿論、なのはがレジアスから聞いた話。
「…なるほどなぁ。でも、根底のところはきっとみんなそうなんやろうね」
「どういう意味?」
「少なくとも管理局におる人らはみんな、何かしら、守りたいものがあるから力を磨いてるんやろうなぁって話。形は違っても、守るための力はみんな持っとるんやろうな」
「はやてちゃんも、フェイトちゃんも、私も……そうだもんね」
守りたいものがあるのは、誰でも同じなのだ。
そのための力は、それぞれ形は違うけれど――
――――それでも、誰かを守る力には、成り得る。
「誰だってな、魔法じゃなくたって、地位や頭脳、色んなジャンルの技能で、大切な人や名前も知らない誰かを守るための力を持っとるんやと思う。……私個人としても、そうあってほしいしな」
「はやてちゃんだけじゃないよ。私も、そう思うから」
レジアスには黒い噂も多い。
彼が、どういう人物なのかも詳しくは知らない。
けれど、彼はきっと正義を信じている。大切なものを守りたいと思っている――そういう根底の気持ちは、きっと、同じものなんだと。
なのはは、今日のレジアスの眼を見て、そう信じずにはいられなかった。